モダニズム文学の中で、過去の作品が「引用」された理由とは?

モダニズム文学の中で、過去の作品が「引用」された理由とは?

「私たちは巨人の肩の上に乗る小人」?

ヨーロッパでは、「過去と現代はどちらが偉大なのか?」という問いを、ずっと考え続けてきました。過去こそが偉大だという考え方が主流だった時代もありますが、12世紀になると逆転して、現代社会が作り出すものの方に価値があるという考え方に変わっていきます。
このことを表すのに、「私たちは巨人の肩の上に乗る小人」という言葉が伝わっています。「巨人」は過去を指し、「小人」は現代を表現しています。そして、小人であっても巨人の肩に乗っているので、巨人より高い位置から社会を見ることができるという解釈でした。そのような考え方に疑問を投げかけたのが、新しさを求めるモダニズム文学の中でも過去の伝統を大事にしようと唱えた人々です。

古典に帰るべきだ

代表的なのはT.S.エリオットやエズラ・パウンド、ジェイムズ・ジョイスといった作家、詩人たちで、1910~20年頃に頭角を現しました。モダニズムでありながらも、古典に帰るべきだという考え方が根底にあるのが特徴で、伝統を受け継ぎながら、なおかつ自分が新しい文学を作っていかなければならないという信念を持っていたのです。この頃は経済の停滞などで社会全体に閉塞感が漂うような時代で、19世紀の主流であったロマン主義と写実主義がマンネリ化する時期とも重なっています。

「引用」に込められた作家たちの思い

興味深いのはこれらの作家たちの多くが、過去の作品を「引用」して創作をしていたことです。例えばジェイムズ・ジョイスは『ユリシーズ』などの小説で引用を多用しています。またエリオットの『荒地』は433行に及ぶ長編詩ですが、やはり引用がちりばめられています。どちらの作品も高い評価を受けました。
引用で作られた文学作品の裏には「過去を重んじる」という思いが込められていたのです。このように文学の変遷と社会に与えた影響などを読み解いていけば、私たちが重んじるべきことは何かといった思索にもつながっていくのです。

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東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 三宅 昭良 先生

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表象文化論、モダニズム文学

メッセージ

「人文学」は人間の豊かさを知る学問です。
人文学がなければ殺伐とした、心の貧しい社会になることでしょう。短期的に成果の上がることに目が向きがちな現代だからこそ、改めて人文学が社会に果たす役割を多くの若者に知ってもらいたいと思います。十分にまだ理解できないけれど、「すごいものを見た」という経験は一生、残ります。若い頃は純真に感動できる時期です。大学ではみずみずしい感性を刺激して、心を豊かにする経験を重ねてください。

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