光を利用して害虫を退治する!
昆虫を致死させる可視光の発見
昆虫は、日の長さを時計代わりに認識して活動リズムを調整し、繁殖や休眠を行います。また街灯などの対象物に定位する(体の位置などを定める)ときも、光を情報として利用しています。このように、光は昆虫が生きていくうえで欠かせないものですが、その半面、昆虫に対して致死効果を発揮するほどの強い毒性を示すこともあります。
光は波長が短いほど生物に対する殺傷力が強く、紫外線で昆虫が死ぬことが知られています。つまり、紫外線より波長が長い可視光を当てるだけでは死なない、と考えられてきました。ところが近年の研究によって可視光でも昆虫が死ぬことが明らかになり大きな話題となりました。
殺虫効果を示すのは青色光
可視光の中でも殺虫効果が認められているのは、波長が400~500㎚(ナノメートル)の青色光です。これまでの研究では、青色光はいろいろな昆虫に対して殺虫効果を示すこと、昆虫の種類や卵・幼虫・サナギ・成虫といった発育ステージによって殺虫効果の高まる波長が異なること、さらに、ある種の昆虫では紫外線よりも青色光のほうが強い殺虫効果が得られること、などが明らかになっています。しかしなぜ死ぬのか、そのメカニズムについては完全にはわかっていません。青色光が昆虫の内部組織に吸収され、体内にできた活性酸素が細胞を傷つけているのではないか、という推測のもと、解明に向けて研究が続いています。
ノンケミカルな殺虫技術に期待
殺虫剤は、安全性に対する厳しい規制があるだけでなく、薬剤に抵抗力を持つ害虫への対応も求められています。しかし光を当てて殺虫する技術が確立されれば、薬剤は必要なく、クリーンな害虫防除が可能になるのです。昆虫の種類に合わせて、より効果的な波長を工夫することで、ハエや蚊といった衛生害虫、田畑を荒らす農業害虫、小麦粉などにつく貯穀害虫など、さまざまな害虫にも適応できます。環境にもヒトにも配慮できる殺虫技術として、その開発に期待が高まっています。
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東北大学 農学部 生物生産科学科 植物生命科学コース 教授 堀 雅敏 先生
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