地域食材「ワニ」を食べる! 現代ならではの調理と加工食品

地域食材「ワニ」を食べる! 現代ならではの調理と加工食品

ワニを食べる?

昔、広島の山間部では「ワニ」を食べていました。もちろん爬虫(はちゅう)類のワニではなく、古い方言でサメのことです。当時、海が遠い山間部では新鮮な魚介類を手に入れるのが難しく、島根県の漁港から運ばれてくるサメが唯一の新鮮な魚だったのです。サメはアンモニアを多く含み長持ちするため、捕ってから半月ほどは刺身で食べていたといいます。しかし、冷蔵技術や物流の発達によって山間部でも新鮮な刺身が手に入るようになると、サメを食べる習慣は廃れていきました。

新しい加工品を生み出す

このような埋もれた地域の食材を活用して、新たな加工食品を生み出す研究が進められています。
広島県の山間部を走る芸備(げいび)線の100周年を記念した弁当には、ワニをはじめとした地域の食材が使われました。ワニは弁当に適した「つみれ」に調理されて、そのほかにも鵜飼(うかい)で採れた鮎(あゆ)を地元の鮎だし醬油で味付けした炊き込みご飯や、イノシシの肉を使ったアスパラ巻きなどが詰められました。
一方、介護の分野では、ワニに親しみのある高齢者のためのかまぼこの開発が進んでいます。かまぼこの弾力は、健常者にはおいしさの一部に感じられますが、かむ力や飲み込む力が弱い人にとっては食べづらさの要因です。そこで、スプーンでもすくえる柔らかさをめざして、かまぼこの形はそのままに柔らかく加工する方法が研究されています。懐かしいワニ肉を使うことで、高齢者の食べる意欲を引き出すことが期待されています。

地域の食材の再評価

日本では、安い輸入食材の普及や栽培しやすい農作物の影響で、地域に根付いた食材を食べなくなってきています。しかし、日本の食料自給率は40%前後で低迷を続けており、地政学的なリスクや円相場の変動など多様な不安材料を踏まえると、地域の食材を再評価して積極的な活用を考える時期にあるとも言えます。そのためには、伝統的な調理法を現代の食生活に合わせて見直し、新たな加工品を生み出すことが求められます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

県立広島大学 生物資源科学部 地域資源開発学科 准教授 吉野 智之 先生

県立広島大学生物資源科学部 地域資源開発学科 准教授吉野 智之 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

食品製造工学、食品科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は、生物学・化学・物理学を駆使して「食品加工のトータルコーディネート」をテーマに研究しています。地域の食材や資源を掘り起こすために、地理や歴史にも関われるところがこの研究の面白さです。あなたにも、いろいろな分野に目を向けて興味を持ってほしいです。そして、ぜひその興味を深めて、オタクと言われるくらいまで入り込んでください。もし、その分野にまだないものがあったら、自分で作り出してみましょう。自分が先頭に立って新しい道を切り開く意気込みを持って進んでください。

県立広島大学に関心を持ったあなたは

県立広島大学は、教育、研究、地域貢献、国際交流のいずれにおいても公立大学として一級の大学になっています。「主体的に考え、行動し、地域社会で活躍できる実践力のある人材の育成」を目標に、教養教育では、大学4年間の学士課程教育を通じて実施する「全学共通教育科目」を設定するとともに、専門教育においては、教養教育との連携を図りながら、「専門科目」を系統的に設定することにより、バランスのとれた教育内容を提供していきます。