当たり前に存在する水路を保ち、もっと身近に
老朽化する農業水利施設
日本の水資源のおよそ7割は農業で使われています。そのため、古くからため池や水路などの、水を農地に引き込むための水利施設が作られてきました。弥生時代の集落である登呂遺跡でも、水田に水を引くための水路が発掘されています。現在、日本にある農業用の水路の総延長は約40万km、およそ地球10周分にも及びます。その大部分は戦後の高度成長期につくられたため、老朽化が深刻になっています。かつては農地が広がっていた場所が宅地開発され、住宅街に変わっている場合もありますが、残された水路は住民の憩いの場として景観上大切なものであり、水路をなくすという選択はごくまれです。
管理にドローンを活用
既存の建造物を有効に活用し、長寿命化を図る管理手法を「ストックマネジメント」と呼びます。ストックマネジメントでは施設がどの程度痛んでいるかの現況調査が欠かせません。水路を一つひとつ目で見て水量を計測するということは困難なため、ドローンを使った撮影や測量、そのデータの解析による水路の補修計画策定が進められています。補修は単に元の状態に戻すだけではありません。つくられた当初は底も側面もコンクリートで固められていた水路を、機能を維持した上で生き物が住みやすい仕様に作り替える工事が盛んに行われています。環境に配慮した施設を求める整備が進んだからです。
「当たり前」を作る土木
住宅街を流れる水路には、水が身近に感じられる親水機能を持たせたものも多くなっています。護岸を階段状にして水辺に近づけるようにし、飛び石を作る、景観のために並木を植えるなど、都市部では水路が公園的な機能も果たしています。水路は時に、川のような自然なものと意識されて地域に溶け込んでいます。作られたものでありながら、人々が無意識でいられ、そこにあるのが当たり前になることが、土木構造物の大切な使命です。土木は、生活に影響を及ぼすものを目に見えないようにつくり、維持していく仕事なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京農業大学 地域環境科学部 生産環境工学科 教授 岡澤 宏 先生
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