ポリフェノールで卵子が若返る!?

ポリフェノールで卵子が若返る!?

求められる牛の高齢出産

牛は2~3歳で最初の出産をし、何度か出産を繰り返した後、10歳を超えたあたりから繁殖能力が落ちてきます。妊娠期間は人間とほぼ同じ10カ月程度ですから、1、2頭子牛を産んで繁殖牛としての評価が決まったときには、もう7~8歳ということになります。しかし良い繁殖牛であれば数多く跡取りを残したいですし、そもそも牛は20年ほど生きる動物ですから、高齢になっても安全に健康な子牛が望めれば、願ってもないことだと言えます。

老化の原因はミトコンドリアの劣化

新たな繁殖技術として考えられているのが、卵子を若返らせる方法です。生物の体内ではエネルギーを生み出すミトコンドリアが合成と分解を繰り返しているのですが、高齢になるとそのサイクルが停滞し、質の悪いミトコンドリアが増えてしまいます。さらにエネルギーを作る際に発生した活性酸素が細胞にダメージを与えてしまいます。これがいわゆる老化のメカニズムで、卵子の中でも同じことが起きています。
しかし赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールを与えると、ミトコンドリアの新陳代謝を刺激することができます。高齢な牛の場合、40%程度の確率で異常な受精を起こしてしまうのですが、卵子を若返らせると異常が10~20%に抑えられるようになります。

ヒトの未来につながる牛の研究

この技術の応用として見込まれているのが、ヒトの生殖技術です。晩婚化が進み、今やクラスに1人は生殖補助技術の恩恵を受けている時代になってきています。畜産における生殖技術の研究は、ヒトの生殖技術の下地となっているのです。
また今後は絶滅に瀕した野生動物を救う手段としても、選択肢のひとつになってくるでしょう。絶滅危惧種の生殖細胞の保存をしたり、もっと身近な動物では、優秀な盲導犬の育成にも生殖補助技術の使用が有効です。

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先生情報 / 大学情報

東京農業大学 農学部 動物科学科 教授 岩田 尚孝 先生

東京農業大学 農学部 動物科学科 教授 岩田 尚孝 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

基礎畜産学、応用動物科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

「畜産学」というと、牛やブタの世話をするイメージがあります。しかし内容としてはヒトに通じる部分が多く、妊娠に至るまでの手伝いをする胚培養士になる人も増えています。また昨今話題の再生医療やiPS細胞、遺伝子組換え技術なども実は体外受精などを含む生殖技術がベースになっています。
日本は少子化、高齢出産が当たり前の時代になっています。そんな中、ヒトにもフィードバックできる研究は興味深く、将来的なニーズも高い分野だと言えるでしょう。

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東京農業大学は、地球上に生きるすべての動物・植物・微生物と向き合い、それらの未知なる可能性、人間との新たな関係を追究していく大学です。食料、環境、健康、バイオマスエネルギーをキーワードに、創立以来の教育理念「実学主義」の下、実際に役立つ学問を社会のため、地球のため、人類のために還元できる人材を養成しています。世田谷、厚木、オホーツクの3キャンパスに6学部23学科を有します。