「計算化学」が物質科学の未来を切り開く
クリーンエネルギーとしてのアンモニア
2019年、遷移金属錯体を用いたアンモニアの触媒的酸化反応の開発に成功したというニュースが流れました。これは、アンモニアに蓄えられた化学エネルギーを電気エネルギーに変換する反応であり、アンモニアを燃料とした燃料電池などを使用するアンモニア社会の実現への足がかりとして評価されています。利用しても二酸化炭素を排出しないアンモニアは、比較的扱いやすく、環境負荷の少ない再生可能エネルギーとして注目されているのです。この研究開発には、アンモニアの反応系を予測するため、計算化学の手法が大きく貢献しています。
計算化学の役割とは?
計算化学とは、分子の中の電子の様子を計算によって明らかにするなど、計算によって理論化学や量子化学の諸問題を扱う学問です。日本では、大型計算機を利用して1960年代頃から始まったものです。コンピュータの進歩とともに、2000年代に入ってめざましい発展を遂げ、裾野を広げています。医薬品をはじめ、半導体の開発など、現在は物質科学のあらゆる分野で利用されていると言えるでしょう。
分子は、電子のやりとりや共有などによって、結合したり解離したりして新たな化合物を作ります。つまり電子の状態がわかれば、その物質の安定的な構造がわかり、また、遷移状態もわかります。つまり、化学反応の際に「越えるべきヤマ」というものを予測できます。
物性や反応の根本を理解する
計算化学では、実験だけでは把握できないことがわかるというメリットがあります。計算化学によって、どう反応するかの予測を立てることで、実験による検証が容易になり、効率化が図れます。また、その物質の物性や反応などに対して、「どうしてそうなるのか」という基本的な理論の部分に立ち返って理解する助けにもなります。
こうした理論がわかることで、新たな展開にもつながります。近年では、機械学習を積極的に利用する試みもなされています。
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東邦大学 薬学部 薬品物理化学教室 教授 坂田 健 先生
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