講義No.10455 化学

「計算化学」が物質科学の未来を切り開く

「計算化学」が物質科学の未来を切り開く

クリーンエネルギーとしてのアンモニア

2019年、遷移金属錯体を用いたアンモニアの触媒的酸化反応の開発に成功したというニュースが流れました。これは、アンモニアに蓄えられた化学エネルギーを電気エネルギーに変換する反応であり、アンモニアを燃料とした燃料電池などを使用するアンモニア社会の実現への足がかりとして評価されています。利用しても二酸化炭素を排出しないアンモニアは、比較的扱いやすく、環境負荷の少ない再生可能エネルギーとして注目されているのです。この研究開発には、アンモニアの反応系を予測するため、計算化学の手法が大きく貢献しています。

計算化学の役割とは?

計算化学とは、分子の中の電子の様子を計算によって明らかにするなど、計算によって理論化学や量子化学の諸問題を扱う学問です。日本では、大型計算機を利用して1960年代頃から始まったものです。コンピュータの進歩とともに、2000年代に入ってめざましい発展を遂げ、裾野を広げています。医薬品をはじめ、半導体の開発など、現在は物質科学のあらゆる分野で利用されていると言えるでしょう。
分子は、電子のやりとりや共有などによって、結合したり解離したりして新たな化合物を作ります。つまり電子の状態がわかれば、その物質の安定的な構造がわかり、また、遷移状態もわかります。つまり、化学反応の際に「越えるべきヤマ」というものを予測できます。

物性や反応の根本を理解する

計算化学では、実験だけでは把握できないことがわかるというメリットがあります。計算化学によって、どう反応するかの予測を立てることで、実験による検証が容易になり、効率化が図れます。また、その物質の物性や反応などに対して、「どうしてそうなるのか」という基本的な理論の部分に立ち返って理解する助けにもなります。
こうした理論がわかることで、新たな展開にもつながります。近年では、機械学習を積極的に利用する試みもなされています。

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先生情報 / 大学情報

東邦大学 薬学部 薬品物理化学教室 教授 坂田 健 先生

東邦大学 薬学部 薬品物理化学教室 教授 坂田 健 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

計算化学、量子化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

最近の大学入試の傾向として、受験科目数が少なくなっていると感じます。受験生は受験に必要な科目ばかり勉強しがちですが、私としては、今のうちにぜひ幅広い分野を勉強しておいてもらいたいと考えています。
大学に入ってからの勉強では、さまざまな知識が必要になります。そのためにも、幅広く、苦手な科目も嫌がらずに、トライしてください。きっと将来役に立ちます。私自身も、高校時代に広い範囲を勉強したことが、いま考えると必要なことだったと思っています。

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東邦大学は、医学部・看護学部・薬学部・理学部・健康科学部の5学部を擁する自然科学系の総合大学です。『自然・生命・人間』を建学の精神として掲げ、自然に対する畏敬、生命の尊厳の自覚、人間の謙虚な心を原点として、豊かな人間性と均衡のとれた知識を有する人材の育成を目標としています。これに基づき各学部それぞれ特色を持った目標を掲げ、時代の要請に応じたより高度な教育・研究体制を整備しながら目標達成に努めています。