「方程式」を解いて「新薬の開発」をサポートする計算化学
「方程式」を使って医薬品の原料・素材を探す
新しい医薬品を生み出すためには10年前後、場合によってはそれ以上の研究期間と、莫大な額の開発費が必要です。薬効成分になりそうな天然成分や化合物の候補は数万~数十万種類あり、一つひとつの効果を細胞実験などで確認しなければならないからです。その期間と費用を減らし、できるだけ短期間・ローコストで薬を開発できるよう、「計算化学」の物理方程式を用いて薬の候補を効率的に絞り込む研究が進んでいます。候補となる物質と、疾患に関わる特定のタンパク質との結合の強さなどを、計算式によって明らかにしようという取り組みです。
複数の計算手法でタンパクとの結合程度を確認
私たちの体は様々なタンパク質の働きによって維持されています。何らかの原因でタンパク質の働きや性質に異常が生じると、さまざまな疾患が発生します。そのため、治療効果の高い薬を作るためには、異常なタンパク質に、より強く結合する成分を探し出さなければなりません。そこで、成分とタンパク質との結合の強さを算出する「ドッキング計算」、タンパク質の動きまで考慮して結合状態を見る「分子動力学計算」、さらに、タンパク質を構成する電子の状態まで深掘りして、成分との相互作用を観察する「量子化学計算」などの手法を使い分けながら、候補となる成分を絞り込みます。そうした計算は、「ニュートンの運動方程式」や「シュレーディンガー方程式」など複雑な数式に基づいているため、コンピュータで処理します。その際、研究者自身が計算手順をプログラミングすることもあります。
疾患の進行状態に合わせて候補を選ぶ
感染症を引きおこすウイルスがヒトの細胞に侵入する際に使うスパイクタンパク質、侵入後、自己複製のために使うポリメラーゼなど、疾患の進行段階で薬が標的とするタンパク質は異なります。それに合わせて、特定のタンパク質を狙い撃ちする、「分子標的薬」の成分を絞り込みやすくできるのも、この研究の特長なのです。
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先生情報 / 大学情報
鹿児島大学 工学部 先進工学科 化学生命工学プログラム 教授 石川 岳志 先生
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