「落とし物」のDNA分析でわかる野生動物の生態・社会
「落とし物」であるフンのDNA分析
犯罪捜査などで、DNA型を用いた個人識別や親子鑑定をすることが一般的になりました。この技術は、動物でも利用できるため、動物の落とし物であるフンなどを用いたDNA分析が動物生態学の研究に生かされています。
フンには、落とし主の腸壁から剥がれ落ちた細胞などのDNAが含まれているため、DNA分析で落とし主の種・性別・個体の識別や、個体間の血縁関係の推定ができます。そのため、フンのDNA分析により、生息地域内の個体数、個体の移動、父子関係など、さまざまなことがわかるようになってきました。
霊長類の子どもの父親を特定したら
群れに複数のメスがいる霊長類では、メスは複数のオスと交尾をするので、観察からでは父親を特定できません。そこで、DNA分析の出番となります。DNAによる父子鑑定により、チンパンジーでは順位の高いオスが多くの子どもを残していることが、ニホンザルでは必ずしもそうではないことが明らかにされています。嵐山のニホンザルの群れでは、交尾できるメスの数が多く、高順位のオスがメスを独占しにくい状況であり、メスが高順位のオスを繁殖相手に選んでいなかったため、高順位オスの子どもの数が少なかったと考えられています。
多様な動物の社会・生態の研究へ
DNA分析は、移動・分散様式も明らかにできます。一般に哺乳類ではオスが生まれた場所から遠くへ分散し、それは哺乳類で一夫多妻が多いことが関係しているといわれています。最近のフンのDNA分析で、一夫一妻のカモシカでは必ずしもオスが遠くへ分散するわけではないことが明らかとなっています。
哺乳類は夜行性の種も含めて、行動を観察するのが難しい場合が多く、野生の暮らしは十分に解明されていません。フンのDNA分析を活用することで、さまざまな哺乳類の生態や社会が明らかにされると期待されます。また、そのような研究により、人間社会の特徴がわかれば、その中で生じている問題解決のヒントも得られるかもしれません。
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東邦大学 理学部 生物学科 准教授 井上 英治 先生
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