心臓が動く仕組みの解析から新薬の開発へ

心臓はペースメーカーからの電気信号で拍動する
心臓は絶え間なく拍動を繰り返して全身に血液を送り出していますが、その拍動は電気信号が引き金となっています。右心房にはペースメーカーの役割を果たす洞房結節があり、ここから一定のリズムで電気信号が発生しているため、心臓は規則的に拍動し続けることができるのです。心臓は実験的に動物の体から取り出した状態でも、血液と類似の成分の塩溶液を流して酸素と栄養を供給し続ければ、ペースメーカーの電気信号によって拍動を続けることができます。しかし、この心臓の自動性の仕組みについては未だ不明な点もあるのです。
心臓の収縮にはカルシウムイオンが必要である
心房や心室にペースメーカーからの電気信号が伝わると、細胞内のカルシウムイオン(Ca²⁺)が増大し、細胞が収縮します。実験では、Ca²⁺と反応する分子(蛍光プローブ)を取り込ませた心筋細胞を、特殊な顕微鏡で観察すると、電気信号の発生直後に細胞質全体でCa²⁺濃度が上昇し、その後に細胞の収縮が起きることを観察できます。一方、この流れのどこかに異常が生じると心臓の拍動が不規則になる状態、すなわち不整脈となります。こうした電気信号とCa²⁺の動きを総合的に追及して心臓の仕組みを解明する研究が行われています。
心臓の基礎研究から臨床応用へ
心房細動は心房が無秩序に興奮する不整脈の一種です。近年、心房細動の原因として肺静脈が注目されています。肺静脈は血管ですが、心房との境界付近では血管の内側に心筋組織が入り込んでおり、この部分の心筋で生じた異常な電気信号が心房に伝わると心房細動が発症する場合があります。そのため肺静脈は新たな治療ターゲットとして注目を集めていますが、既存の薬物には肺静脈にある心筋の電気信号を狙ったものは存在しません。そこで、「なぜ肺静脈心筋で自発的な電気信号が発生するのか」といった基礎的視点と、「肺静脈心筋の電気信号を止める新規治療薬の開発」といった臨床応用への可能性の両面から研究が進められています。
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東邦大学薬学部 薬物学教室 准教授行方 衣由紀 先生
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