講義No.10467 物理学

ブラックホールを「つくる」:宇宙研究の新時代

ブラックホールを「つくる」:宇宙研究の新時代

重力波:宇宙探査の新手段

2016年、重力波の直接検出に成功したことをアメリカの研究チームが発表しました。アインシュタインの予言から100年、ついにその宿題が解けた瞬間でした。重力波は光速で伝わる時空のさざなみです。電磁波が電荷の運動によって生成されるのに対し、重力波は質量の激しい運動によって生じます。重力波の直接検出は、宇宙を調べる新たな観測手段を私たちが獲得したことを意味します。重力波はしばしば音による観測に例えられます。見えない霧の向こうを「聴いて」調べることができるように、電磁波では観ることのできない宇宙の姿を知ることができるのです。

宇宙のシミュレーション:理論家の望遠鏡

重力波をはじめとする観測から宇宙の姿を知り、その謎を解明するためには、理論予測と観測データを突き合わせることが必要になります。理論予測を打ち立てるには、素粒子の間にはたらくミクロな力、電磁気力、一般相対性理論に基づく重力など、多くの要素が必要になります。紙と鉛筆だけではとても太刀打ちできないので、スーパーコンピュータを駆使した宇宙のシミュレーションが必要になります。スーパーコンピュータは今や「理論家の望遠鏡」とも呼ばれ、実験で作ったりその場に行ったりして調べることのできない宇宙の研究で重要な役割を果たしています。

ブラックホールを「つくる」:究極の理論に向けて

今のところその綻びは見つかっていませんが、多くの研究者は一般相対性理論が究極の重力理論であるとは考えていません。綻びは、ブラックホールなどの強い重力の場合に見つかる可能性があります。そこで、スーパーコンピュータの中にブラックホールを「つくって」調べる研究が進められています。近い将来、見つかった綻びから一般相対性理論に代わる理論が打ち立てられるかもしれません。また、究極的には「宇宙の産声」を重力波で聴くことができるとの予測もあります。私たちは、かつてガリレオが望遠鏡を覗いた瞬間に匹敵する、画期的で幸運な宇宙の大航海時代にいるのです。

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先生情報 / 大学情報

東邦大学 理学部 物理学科 教授 関口 雄一郎 先生

東邦大学 理学部 物理学科 教授 関口 雄一郎 先生

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物理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

大学合格ではなく、もっと先をゴールに見据え、まずは数学の習得に努めましょう。物理学は数学という言語で展開されます。外国に行った際、その国の言語がわかると、旅行が楽しいだけでなく、文化などの理解も深まります。同様に、数学がわかると数式の意味がわかり、物理はより楽しくなります。
もう一つ。今、重力波などの新たな観測手段を私たちは手に入れています。なので、物理を専攻しようというあなたは幸運です。アインシュタインが知ることのできなかった宇宙の姿を知り、その謎を解明するチャンスがあるのですから。

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東邦大学は、医学部・看護学部・薬学部・理学部・健康科学部の5学部を擁する自然科学系の総合大学です。『自然・生命・人間』を建学の精神として掲げ、自然に対する畏敬、生命の尊厳の自覚、人間の謙虚な心を原点として、豊かな人間性と均衡のとれた知識を有する人材の育成を目標としています。これに基づき各学部それぞれ特色を持った目標を掲げ、時代の要請に応じたより高度な教育・研究体制を整備しながら目標達成に努めています。