材料学からみる新たな骨の世界 ~異方性原子配列に注目して~

材料学からみる新たな骨の世界 ~異方性原子配列に注目して~

骨インプラントの問題点

骨折の治療法として、金属製の「ボーンプレート」が設置されます。ところが、このプレートの強度が骨よりも高すぎると、外部からの力は骨に伝わりにくくなります。その結果、骨には力を感じるセンサーとしての細胞が存在するため、骨が自らを必要ないと判断して細くなり、骨の質も劣化させてしまいます。骨の質とは、例えば骨を構成するセラミックスであるアパタイトの原子の並びです。骨の質の劣化を防ぐにはプレートと骨の強度をそろえることが必要です。その際、注意すべきは、骨には原子の並びによって強度が異なる異方性があるということです。

特定の方向に機能性を発揮(異方性)

材料にはもともと異方性があります。これは原子の並び方である結晶構造と、電子濃度と分布で主に決まります。結晶構造には、原子の並ぶ方向と面という要素があります。どちらの方向から原子面に対して力を加えるかで、ばね定数(ヤング率)が異なります。さらに、電子濃度と分布がその強弱を決めるのです。骨組織の方向とプレートの原子配列を調整し、ヤング率を同等にすれば、骨の質が劣化することはありません。結晶構造や電子濃度・分布は材料により決まっているので、目的のヤング率にするには、最適な合金組成とし、温度や圧力を変化させることで、材料の状態を制御します。

金属3Dプリンタで生体に親和性の高い材料を開発

原子の並び方や表面形状のコントロールは、最新の金属3Dプリンタで可能です。この新技術を使えば、生体骨と骨インプラントとの間で、骨を作る細胞を自由自在に操り、骨と金属プレートを健全に融合させることができます。この際、骨組織の向きに沿って、プレートの原子の配列を調節します。生体は、チタンを多く含む合金にて高い親和性を示します。そこで、チタン合金で目的の骨に近いヤング率になるよう結晶構造や安定性、原子の並びを制御します。異方性をコントロールする技術は、生体材料や航空宇宙材料にとって、必要な方向に高い機能性を発揮することができる非常に重要な技術です。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪大学 工学部 応用理工学科 マテリアル生産科学科目 教授 中野 貴由 先生

大阪大学 工学部 応用理工学科 マテリアル生産科学科目 教授 中野 貴由 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

材料工学、生体材料学、異方性材料学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私たちのまわりには、知的好奇心を満足させるようなさまざまな現象があります。常に接している現象も、普段のことと思わず、常に疑問を持ちましょう。例えば、数学の公式は、それを利用して問題を解くことより、なぜその公式が導かれたのかを理解することの方が大切です。学校で学ぶ勉強は本当に必要なのかという解のない問いでさえも、自身でじっくりと考えるプロセスにより思考の幅が広がります。ぜひ、自問自答する習慣を身につけてください。その結果、これまで見ていた世界が、今までとはまるで異なったものに変わるはずです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

大阪大学に関心を持ったあなたは

自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。