古木材を科学すれば資源の明日が見えてくる
伝統的な木造建築を支えてきた古木材
歴史ある社寺や古民家の柱や梁(はり)に使われている「古木材」には、天変地異にも耐え千年以上もの間、建物を支えているものも多くあります。木の持つ優れた特性を生かした日本の木造建築技術は、世界に誇れるレベルです。「束石(つかいし)」と呼ばれる石で土台を造り、その上に木で構造物の骨組みを造る伝統的な日本の木造建築は、壁の面で強度を持たせる鉄筋コンクリート造りとは違い、木材という軸で強度を持たせる構造です。もともと木は風にしなり、自身にかかる力をうまく逃す構造を備えています。鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りが“剛”の構造なら、伝統工法である木造建築は木材のしなやかさとしたたかさを最大限生かした“柔”の構造で、地震の揺れなどを巧みに「いなす」ことができるのです。
材料としての古木材を科学する
しかし今まで、材料としての古木材の科学的研究や評価はあまり進んでいませんでした。ヒノキやマツ、スギなど日本の風土が育んだ木が、材料としてそれぞれどんな性質を持ち、年月を経るとどのように変化するのか。伐採後、保管され古木材となった場合と、建築材として長年使われ、荷重や張力がかかっていた場合ではいかに差が出るものなのか、まだまだわからないことがたくさんあります。
木質資源が循環する社会をめざして
そのような中でも、木材研究者が長年かけて精力的に蓄積したデータからシミュレーションを行い、建物の中で使われている木材の強度特性を求められるようになりました。伝統的な木造建築の調査や修復に大いに役立っています。
リユース・リサイクルができるのも、木が材料として優れている点です。ただし木材を再び長く使い続けるためには、それまでの長い年月で受けた熱や力、水分移動などによる材質の変化を研究し、強度や耐久性などを評価することが必要です。木質資源がゆっくりと循環する社会をめざして、今後も材料としての木を研究するのが「生物材料工学」なのです。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部 生物環境科学科 木材工学研究室 教授 山崎 真理子 先生
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