産科医療の現場で、「母乳育児」を支援する
母乳で感染症に対する抵抗力アップ
母乳を飲んでいる赤ちゃんは、安心していて、満足そうです。このとき、母子の間には信頼関係が育まれています。母乳をあげることは母子の心の安定をもたらすだけでなく、身体的にも効果があります。赤ちゃんは、抵抗力が上がり感染症にかかりにくくなります。母親は母乳を与えることによって、乳がんや卵巣がんのリスクを低下できることがわかっています。胎児は36週以降に免疫の多くが備わるので、早産の場合にはそれが完全でないまま誕生してしまうことがあります。NICU(新生児集中治療室)に入院してくる未熟児は、自分で飲む力が弱く、また腸の発達が未熟なため、人工乳だと吸収できなかったり、重篤な場合には壊死(えし)性腸炎という病気で腸の一部を切除しなければならなくなったりします。
低体重児に「善意のドナーミルク」
だからこそ母乳を飲むということには大きな意味があります。新生児の段階で母乳を飲むかどうかが、命を左右することもあり得ます。人工乳を与えられる前に、一滴でもいいから赤ちゃんに母乳をあげたいのです。かつての日本では母乳の出にくい女性の代わりに母乳分泌に恵まれた女性が与える「もらい乳」が一般的でしたが、感染症などのリスクもあります。そこで、日本母乳バンク協会は、感染症がないことを確認して低温殺菌をした母乳を極低出生体重児に「善意のドナーミルク」として利用できるような活動を行っています。
母乳育児は1日1回でもいい
赤ちゃんが母乳を飲みたがらないことや、母乳が出にくいことで悩んでいる母親は少なくありません。しかし、母乳育児というのは、1日7~8回授乳するうちの1回でも母乳を飲ませられればいいのです。祖母や先輩ママに接する機会が少ない母親がネット上で情報を収集し、「正解がわからない」と苦しむケースは少なくありません。産科の医療現場で母子をしっかり見守り、悩みを聞いてひとつひとつ母親と共に解決していくことで、母乳育児を支えることができるのです。
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富山県立大学 看護学部 看護学科 准教授 小林 絵里子 先生
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