ダムに土砂を貯めずに持続的に利用する

ダムに土砂を貯めずに持続的に利用する

ダムの機能を損なう、たまった土砂

農業や生活に使う水資源や電力をもたらすダムには、水だけでなく川の上流から運ばれた土砂や栄養分も一緒に貯まります。その量が多いと貯められる水の量が減ってダムの機能が損われたり、水質が悪化したりします。開発途上国では、管理のノウハウが乏しく、せっかく作ったダムが土砂で埋まって使えなくなることもあります。上流の農地に土手を作って農地の土砂流出を減らす対策もありますが、土手の分だけ農地が使えなかったり、建設費用負担を嫌がったり、営農者側のメリットも見えにくかったりして、なかなか普及が進みません。

いかに土砂をためずに下流に流すか

ダムの運用の側から土砂を貯まらなくする方法として、貯水池手前からバイパスを作り、ダム下に流す方法があります。また、細かな粒子で強く濁った水が流入する場合には、水の密度の違いで貯水池の澄んだ水と混ざらず、水底を這って流下します。そこで、濁った水がゲートに達したら下部を開門して下流に流します。これならバイパスのような大規模な設備の追加はいりません。ほかに、一時的にダムの水位を下げて自然状態と同じく土砂を下流に流す通砂という方法もありますが、普段の流量が少ない河川だとダムの水位を回復させるのに時間がかかります。このように、個々の河川が持つ特性によって可能な対策も変わっていきます。また、いずれも土砂を下流に流そうとしていますが、河道への土砂の供給は魚などが生息する環境を保全する点からも重要です。

たまった土砂を有効利用する

ダムから土砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)の費用を、土砂を有効利用してまかなう取り組みも行われています。日本では、コンクリートに混ぜる骨材や、侵食された海岸の埋め立てに利用されています。チュニジアでは土砂の粒子が細かい粘土なので、住宅用レンガの原料としての可能性が検討されました。また、世界では飲料用の地下水のフッ素汚染が問題になっていますが、土砂から作った多孔性セラミックスでフッ素を取り除く浄水装置を作る研究も行われています。

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宮崎大学 工学部 工学科 土木環境工学プログラム 教授 入江 光輝 先生

宮崎大学 工学部 工学科 土木環境工学プログラム 教授 入江 光輝 先生

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土木工学、水工学

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メッセージ

社会に存在するさまざまな問題は、それが技術的な課題であっても工学の知識だけでは解決が難しいことが多々あります。技術が社会に受け入れられ、普及するためには、その技術が落とし込まれる現地をよく観察し、地元の人々と一緒に問題に取り組みます。経済的な観点や異文化理解などの文系的な知識や思考法はその場面で大いに役立ちます。
社会の役に立つ技術を開発するのが工学です。その技術をいかにして役立てるかという視点を忘れずに、大学で広く勉強してほしいと思います。

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