農業は地域の環境と密接に関係した“特殊な産業”
工業と農業の違い
続発する食品偽装事件などで、食の安全・安心に対する関心が高まっています。しかし、食の元になる農業について、じっくり考えたことがあるでしょうか? まず考えてほしいのが、農業と工業の違いです。そこから生み出された製品はどちらも店頭に並び、私たちはお金を出して自由に買うことができます。
しかし、生産者の立場から見ると、努力の注ぎ方も働き方も大きく異なっています。その違いを簡単に表現すれば、工業は製品の「よさ」が数値化しやすく、とてもわかりやすい世界だということです。高性能でデザインがよくて安い製品をつくれば、たくさん売れます。しかし農業は、まず「よさ」の定義が曖昧です。国や地域あるいは時代によって、農業の受け皿となる社会システムや経済、食の嗜好が異なるからです。さらに天候にも大きく左右されます。消費者が欲しいものをつくるという点は同じでも、工業では作り手の意思やアイデアを反映した製品を作りやすく、逆に農業では多くの制約をうけてしまうのです。
賢い消費者が農業を救う
工業製品なら、高級車や高級腕時計など大金を出しても買いたいものはたくさんあります。しかし、どんなにおいしいお米を作っても、1キロ10万円のお米は誰も買わないでしょう。また自分たちが食べる以上に買う人もほとんどいません。つまり売れる量にも限りがありますから、みんながおいしいお米を作っても価格が上がることは期待できません。逆に売り惜しみや価格を高くすれば、社会的な非難を浴びるでしょう。
ですから、農業を行っている人たちだけで農業を変えていくことには限界があるのです。では誰が日本の農業を変えていくのでしょうか? それは、こうした農業の仕組みを理解した「賢い消費者」です。本当に安全で品質のいい作物に対しては、正当な対価を払うという意識。これがとにかく安ければいいとなれば、農家はやっていけなくなり、日本から安全な作物がなくなってしまうかもしれません。日本の農業を良くするのも悪くするのも、私たち消費者一人一人なのです。
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