豪雨と干ばつと地盤災害

豪雨と干ばつと地盤災害

地すべりは水位がカギ

地盤の崩壊を考える際、カギになるのが「有効応力」です。
有効応力は、地盤を構成する土の粒子が相互に支え合っている力のことで、地盤が乾いている場合は、有効応力は地盤の自重そのものです。しかし、地下水位が上昇すると、土の間隙が水で満たされるため浮力が生じ、土粒子間に働く有効応力は低下します。地盤の強度は摩擦則に従うため、有効応力の増減は地盤の強度の増減とリンクします。地すべりは豪雨などで地下水位が上がり、有効応力が低下することで地盤の強度が低下し、耐えきれなくなって土砂が動き出す現象です。

干ばつが地すべりを引き起こした?

しかし近年、この有効応力の考え方だけでは説明できない土砂災害が海外で観測されました。
2005年、約10万人が犠牲になったパキスタン・カシミール地震が発生しました。山間部で大きな地すべりが発生し、崩壊土砂が川をせき止めて天然ダムが形成されました。この天然ダムはモンスーン期の降雨で決壊するのではと心配されていましたが、その後大きな変状は確認されず、このままダム湖になるものと考えられていたところ、2010年2月、乾季の降雨で突然決壊しました。有効応力の考え方では、雨季の高水位の時が最も決壊しやすいはずなのですが、このときは逆に記録的干ばつが続いていました。その後の研究で、ダムの強度の低下はダムを形成する地盤の風化作用によるものである可能性が浮上しました。また、その後の室内実験により、風化による強度の低下は、降雨前に地盤が乾いていればいるほど大きくなることがわかりました。

気候変動が引き起こす地盤災害を防ぐ

近年、世界中で干ばつと洪水が連続して発生しています。この災害は、豪雨だけではなく、その前に干ばつがあることが条件になっているのではないかとの仮説が立ちます。干ばつと降雨の繰り返しによる地盤の風化の研究が進めば、リモートセンシング技術を利用して、「この地域は次の雨が危ない」といった予測ができ、人的被害を抑えられるのではないかと期待されます。

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東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 准教授 清田 隆 先生

東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 准教授 清田 隆 先生

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土木工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

防災に関する研究は、たとえ直接的ではなくても、人々の生命や社会基盤を自然災害から護っているんだ・・・と感じることのできる、誇りを持てる仕事です。
私は高等専門学校卒で、20歳で地質調査会社に就職しました。そこで地盤・地質に興味を持ち、徐々に知識を得て現在に至っています。高校生のあなたには、やりがいのある仕事を見つけるには、いろいろな道があるということも知ってほしいです。大事なのは、知識を得ることに喜びを持てるようになること。勉強を勉強と思っているうちはまだまだです。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。