長く息を止めて水中に潜むワニ ヘモグロビンの構造の研究
水中に隠れて獲物を待てる理由
ワニは人間と同じように肺で息をしますが、人間と違って2~3時間も息を止めていることができます。水中に身を隠してじっと獲物を待ち、獲物が近づくと水から飛び出して襲います。ワニが人間よりもずっと長く息を止められる能力には、血液の赤血球を構成する「ヘモグロビン」というタンパク質の構造や仕組みの違いが関わっています。ヘモグロビンは肺で酸素と結合して、血管で全身をめぐりながら各臓器で酸素との結合を切り離して放出します。人間は取り込んだ酸素の約半分しか利用できませんが、ワニはほとんどすべてを利用できます。
ワニのヘモグロビン
ヘモグロビン分子は、酸素との結びつきやすさを表す「酸素親和性」が高い状態と低い状態があり、必要に応じて変化します。人間の場合、それを変化させるのは赤血球にあるDPGという有機リン酸の一種です。DPGがヘモグロビンにくっつくと、酸素が離れやすくなります。DPGによって酸素親和性を制御することで、酸素を取り込んだり放出したりしています。一方、ワニのヘモグロビンは酸素を放出する時、DPGの代わりに重炭酸イオンを使います。人間の赤血球中のDPGの量は決まっていますが、すべての動物は代謝によって二酸化炭素を発生させ、それが血液中で重炭酸イオンになります。特にワニは潜水中に、ヘモグロビンに結合した酸素がほとんど残らないレベルまで血液中の重炭酸濃度が上昇するという、ユニークな特性を持っています。
血液の病気の治療への希望
ヘモグロビンの配列解析によって、ヒトのヘモグロビンと非常によく似た構造を持ちながら、ワニのヘモグロビンと同じ機能特性を持つヘモグロビンを大腸菌で生産し、作り出すことも可能になっています。最近電子顕微鏡の性能が向上したことで、ワニヘモグロビンの構造決定も可能になりました。このような研究は、遺伝子異常によって引き起こされる赤血球疾患の治療にも役立つと期待されています。
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