リンゴ園にフクロウを呼び戻せ!
リンゴ園のフクロウ
弘前(ひろさき)市のリンゴ園にはさまざまな野生動物がすみついています。中でもフクロウは、リンゴの木の洞(うろ)を巣として毎年繁殖のために訪れます。一方で近年、農作業の省力化と高効率生産を図るために、樹齢の古い木を大きく育てる「マルバ栽培」から、小さな若年樹を密に植える「ワイ化栽培」に切り替わっています。しかし、ワイ化栽培に切り替えが進むと、古木の洞にすんでいたフクロウを追い出すことになります。その結果、リンゴ農家が手を焼く害獣のハタネズミが増え、樹皮を食べられる被害が増えてしまいました。
リンゴの栽培方法の変化をうけて
フクロウの雄は秋から冬にかけて巣を探し、春先に雌を誘って営巣し、産卵を経てヒナがふ化します。5月ごろに巣立ったヒナは、夏までは巣の付近でネズミを食べて過ごします。親鳥2羽にヒナが5羽生まれたとすると、1日に捕獲するネズミは約14匹です。4~7月の120日間をリンゴ園で過ごすので、合計1700匹近いネズミを駆除してくれることになります。フクロウがすみついてくれれば、ネズミからリンゴの木を守ることができるのです。
そこで、ワイ化栽培のリンゴ園にフクロウを呼び戻すために、フクロウのための巣箱が設置されました。再びフクロウがすみついたリンゴ園では、ハタネズミが6割以上減少し、防除効果が高いことが確認されています。フクロウがすみついたリンゴ園は、殺鼠(さっそ)剤の使用量が低減できるだけでなく、フクロウが育つ環境をアピールすることで、付加価値のあるリンゴとしてブランド化もされています。
生き物との共存
人間は自分たちの住みやすさを優先して、自然を大きく作り変えてきました。それにより、生き物のすみかは大きな影響を受けています。生き物との共存を試みるためには、対症療法的な対応ではなく、生き物の生態を正しく理解し、根本的な環境をきちんと整備することが大切です。そこで新たな生態系が回り始めることが、理想的なゴールだと言えるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
弘前大学 農学生命科学部 生物学科 教授 東 信行 先生
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動物生態学、生態工学、野生生物管理学先生が目指すSDGs
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