動物の健康を集団で管理するハードヘルス学
ハードヘルスとは何か
ハードヘルス(herd health)学とはherd=群れ・集団のhealth=健康、つまり動物の集団における健康を管理する学問のことを言います。酪農において、家畜は集団で飼われることが多く、その健康管理をすることで、生産を安定させる研究です。動物が集団になると居住空間内の密度が高くなりストレスが大きくなるため、病気にかかりやすくなります。そこで、餌を食べる環境や眠る場所の整備などを考えてストレスを軽減させる必要があります。
特に、乳牛の病気が発症しやすい時期が分娩後の移行期です。主な症例としては、ものを食べなくなる、起立不能になる、乳房炎を起こす、また分娩により免疫力が落ちるため感染症にもかかりやすくなります。乳牛の病気の7~8割はこの時期に起こると言われるほどです。乳牛は、ミルクを安定して供給しなくてはならないため、分娩後病気になると搾乳量にも影響が出てくるので、この時期のコントロールが乳牛におけるハードヘルスの大きな役割となります。
酪農の現状と今後の展開
乳牛の飼育法についての考え方は、現在、世界的に大きく2つに分かれています。
ひとつは、乳牛を管理された環境下で飼い1頭から少しでも多くのミルクを取ろうという考え方です。いわゆる生産性重視の考え方で、アメリカや日本の多くの酪農家はこの考え方です。もうひとつは、乳牛のペースに合わせて無理をさせず、コストもかけずに飼っていくという放牧の形で、ニュージーランドをはじめ日本では北海道旭川市などで実践されています。放牧の健康管理上のメリットについては研究上でも注目されていますが、乳牛も牛舎での集団飼育に慣れるように改良されていたり、土地の問題もありますから、いちがいにどちらがいいとは言えません。
また、日本においては、酪農農家の数は減っているのに、乳牛の頭数は変わっていません。つまり1軒の農家あたりの頭数が増えているので、今後ますますハードヘルスの必要性は高まってくると言われています。
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