動物を閉じ込め、太らせて食べることを批判する 「食」の倫理とは?
フードエシックス
現在、世界では約100億人分の食糧が生産されていますが、世界人口の1割にあたる約8億人が飢餓状態にあります。また、人口増大によって食肉の消費量が拡大し続けており、家畜の飼料となる大豆の栽培のためにアマゾンのジャングルが伐採されるなど、環境への負荷も増すばかりです。私たちは、お金さえ出せば好きな食べ物を買う権利が法によって保障されています。しかし、世界的な気候変動や人口爆発が続く今、法的な観点だけでなく「フードエシックス(食の倫理)」の面からも食について考えなければなりません。
工場畜産は許されるか
フードエシックスを考える上で、肉食は非常に重要な問題です。世界中に広まった肉食文化は、動物を身動きのできない狭いスペースに押し込め、太らせて出荷する「工場畜産」によって支えられています。ピーター・シンガーという倫理学者は『動物の解放』という有名な著書の中で、人間の利益のために動物に苦痛を強いる工場畜産や動物実験に異を唱えました。『動物の解放』は1970年代から世界中に広まった「動物解放運動」に大きな影響を与えましたが、そのベースにあるのは18世紀から19世紀にかけて活躍したジェレミー・ベンサムが体系化した「功利主義」という考え方です。
功利主義と肉食
「功利主義」は、「最も多くの人々に最大の幸福をもたらすこと」を正しいと考える「最大多数の最大幸福」を原理としています。功利主義には、最大多数、つまり社会の多数派を尊重し、マイノリティを軽視するという批判もあります。しかし、ベンサムが意味する「最大」とは、快楽や苦痛を感じるすべての存在を指すものであり、そこには女性や性的マイノリティも含まれています。さらにシンガーやベンサムは、動物も快楽や苦痛を感じる主体として人間と同様に扱うべきであるという立場をとっています。彼らの言説は、これからの「フードエシックス(食の倫理)」を考える上でも非常に重要な意味を持っているのです。
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先生情報 / 大学情報
専修大学 経済学部 生活環境経済学科 教授 板井 広明 先生
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社会思想史、応用倫理学、農学、経済学史先生が目指すSDGs
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