食糧難を救う「植物バイオテクノロジー」
市販の苗はウイルスフリー
植物には、その植物にだけ感染するウイルスなど植物病原菌が存在しています。農作物が感染すると品質低下や収穫量減少の原因となりますが、有効な薬剤はありません。そこで世界各国で取り組んできたのが、「植物バイオテクノロジー」による苗のウイルスフリー化(病原が存在しない状態にすること)です。ウイルスフリー種苗からの生産は収量が2割あがると言われています。国内でも1950~60年代の基礎研究によって種苗生産技術が確立しました。現在販売している野菜や果物の苗も、大半がウイルスフリーです。
成長点を培養
植物には、茎の先端で活発に細胞分裂を繰り返し、新しい組織をつくり続ける、成長点と呼ばれる部分があります。植物がウイルスに感染したとしても、大きさ0.1mmほどの成長点は感染していません。ウイルスが感染を広げるスピードより、成長点の細胞分裂の方が速く、ウイルス感染が追い付けないためと考えられています。この成長点を切り出して培養し、ウイルスフリーの苗をつくります。徹底した温度管理や光の調整などが必要で、時間もコストもかかりますが、ウイルスフリー苗は作物本来の力を発揮し、品質向上や収穫量の増加につながります。
種イモを作る技術を地域で開発
ジャガイモ栽培に必要な種(たね)イモはGHQなどと政府が戦後安定供給をはかるため、国が指定した農場で生産し、検査をクリアしたものが流通しています。古い技術を使用しているため、コストが高く、ジャガイモの価格にも大きく影響します。また約9割が北海道産と偏っているため、北海道が天候不順になると種イモが不足し、全国のジャガイモ生産量が減少してしまいます。そこで鹿児島のジャガイモ産地では、農工連携でウイルスフリーの種苗生産技術を開発し、種イモから地元で生産しています。その結果、品質は格段に向上し、収穫量も2割増加、さらに種イモ栽培期間は半分程度に短縮され、低コスト化も可能になりました。この生産技術は、世界の食料危機を救う研究としても注目を集めています。
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先生情報 / 大学情報
長岡技術科学大学 工学研究科 技術科学イノベーション専攻 准教授 牧 慎也 先生
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