講義No.10693 材料工学

傷ついても自ら修復するセラミックス材料の開発

傷ついても自ら修復するセラミックス材料の開発

セラミックスの性質

セラミックスは、硬くて耐熱性や耐食性(腐りにくい性質)に優れた材料です。一方で、1カ所の小さな傷から簡単に割れてしまうという性質も持っています。そのため、部品の使用中に表面の摩耗による傷が全体の破損につながる懸念があります。さらに、セラミックスは高価な材料であるため、破損による交換の頻度が高ければ、部品材料としての採用は難しくなります。

高温下で自己治癒するセラミックス

もし傷がついたとしても、材料自らが修復してくれれば好都合です。そんな「自己治癒セラミックス」とは、傷ついた場合、熱処理をすることで修復され、全体の強度に影響をおよぼさないという材料です。セラミックスの中に、酸化しやすい物質を混ぜ込んでおきます。混ぜ込んだものは、常温では酸化しません。傷がついた時に高温で熱すると、混ぜ込んだ物質が酸化物に変化して傷を埋め、全体の強度を保つのです。ヒトの体中にある血小板がかさぶたになって傷をふさぐようなイメージです。
酸化アルミニウムというセラミックスに金属のニッケルを混ぜ込んだ自己治癒セラミックスの研究が行われています。1200℃の高温で1時間ほど熱することで傷が修復され、再度同じ部分に傷が入っても4~5回は修復が可能です。実用化に向けて、修復できる温度を家庭のオーブントースターで出せる程度の100~200℃にまで下げることをめざして研究が進められています。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)に貢献

自己治癒セラミックスが実用化され、機械部品などに取り入れられれば、完全に壊れる前に部品を熱処理して使い続けることができます。これからの時代は作ったものを長く使うことが大切になりますが、自己治癒セラミックスなら熱するだけなので、メンテナンスや交換の手間や経費も軽減されます。セラミックスのほかにもコンクリートなどでも自己治癒材料が研究されており、このような寿命の長い材料を生み出すことは、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への貢献につながります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 機械工学分野 教授 南口 誠 先生

長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 機械工学分野 教授 南口 誠 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

工学、材料システム工学、機械工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

人生、先はどうなるかわかりません。私も自分が国際学会で発表するような人間になるなど、まったく想像していませんでした。やりたいことがあるなら、まずは挑戦しましょう。新しい知識や経験が増えて、知らなかった自分の一面も見えてきます。もし仮にその道でうまくいかなかったとしても、そこで得た知識や新しい自分があれば、ほかの道も開けてくるものです。
科学技術の研究は、単に技術の進歩のためだけではなく、環境を改善するなど世の中を良くするものです。私の研究に興味があったら、ぜひ長岡技術科学大学に来てください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

長岡技術科学大学に関心を持ったあなたは

長岡技術科学大学は、大学院に重点を置き、実践的な技術の開発を主眼とした教育研究を行う工学系の大学として、新構想のもとに設置され、実践的・創造的な能力を備えた国際的に通用する指導的技術者・研究者の養成を行い、これらを通じて社会との連携を図ることを基本理念としています。
大学はまた、勉学の場であると同時に人間形成の場でもあります。美しい豊かな自然に恵まれた環境と、国内はもとより世界の各地から集う学生たちが豊かな人間性を養い、創造性とチャレンジ精神を求め、友情を育む潤いのある大学生活の場があります。