菌類から栄養をもらって生きる絶滅危惧種の植物を守れ!
絶滅危惧種のランは移植困難
日本に自生するラン科植物にキンランがあります。今では少なくなってしまった里山などの環境にみられ、5月初旬に鮮やかな黄色の花を咲かせます。このキンランなどの多くのラン科植物は絶滅危惧種となっています。保全対策として栽培や移植も行われていますが、栽培は大変難しく、ほかの場所へ移植しても多くは数年で枯れてしまいます。これはなぜでしょうか。
土の中にいる菌と共生する
実は、多くの植物は土の中の菌類と共生しています。植物は自分の根だけでは養分などを集める範囲が限られ、また土の細かなすき間にはなかなか入れません。そこで、共生菌が菌糸を細やかに伸ばし、そこから土壌中のリン酸や窒素を効率良く吸収して植物に与えます。その代わりに、植物は光合成で作った炭素化合物を共生菌に渡しているのです。
しかし、なかには共生菌から炭素化合物までもらっている植物がいて、キンランもその一つです。キンランのパートナーとなる共生菌は、ブナ科やマツ科などの樹木とも共生しており、土壌から得た窒素やリン酸を樹木に渡す代わりに、樹木から炭素化合物をもらっています。キンランはこの菌と共生し、窒素とリン酸だけでなく、共生菌が樹木から得た炭素化合物までもらっているのです。これはキンランが自生する森は暗いために、自らの光合成が活発にできないからだと考えられます。
植物の保護には環境保全が必要
さらには、葉緑素を失って自らは光合成をせず、完全に共生菌に依存している植物もいます。例えば、ラン科ではありませんが、夏に花を咲かせるツツジ科のギンリョウソウはそうした植物の一つです。これらのように、菌類と共生状態にある植物は、共生の相手となる菌が存在しなければ、移植しても育ちません。さらに、キンランのように共生菌が樹木などとも共生している場合には、その樹木も一緒に存在する必要があります。つまり貴重な植物の絶滅を防ぐには、植物固有の生態に配慮し、周辺の環境そのものを保全することが必要なのです。
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千葉大学 教育学部 教授 大和 政秀 先生
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