植物の成長、分化、代謝をコントロールして有効活用する
植物の細胞培養でできること
植物は細胞分裂を繰り返しています。その中で最も活性がある芽や葉の先、根から細胞を取り出して、無菌環境のシャーレの中で増やすのが「植物細胞培養」です。しかし、単に増やすだけではありません。生殖細胞に成長調節ホルモンを加えると、分化して芽や根などほかの器官ができたり、逆に分化したものが細胞に戻ったりします。また、遺伝子組換え技術やゲノム編集によって、特定の性質や機能を強化したり、止めたりすることもできます。異なる種の細胞を組み合わせることで、新しい植物を作ることも可能です。さらに、植物に病原菌を加えると防御のために代謝物を出しますが、その量を調節することもできるのです。
食材や薬品などの原料として利用される
このように植物の成長や分化、代謝をコントロールする植物細胞培養の技術を使えば、目的の植物や細胞を作れます。これは、異なる物質を化学反応させて新しい物質を作る化学合成と似ています。化学者の頭には、化学式や物質の構造変化がありますが、細胞培養の場合は成長のプロセスや加えるホルモン、遺伝子の変化が頭にあります。化学合成の場合はしばしば高温、高圧といった環境が必要ですが、細胞培養は少ないエネルギーと労力で目的の物質を作ることができます。このようにして培養された細胞は、そのままの状態で細胞に含まれる栄養や有効物質を利用する食材や薬品などの原料として使われたり、あるいは元の植物に戻して栽培し、農業や林業で利用されたりします。
家庭でも植物細胞培養技術を利用?
植物細胞培養の技術は、将来は家庭での利用も期待されています。現在は工場で大量の植物細胞が培養されています。これと同じことができる家庭用培養装置が開発されれば、例えば野菜炒めに使う野菜の細胞を必要な分だけ家庭で培養して、食材として利用することができるでしょう。細胞は天候などの影響を受けないため、食糧問題を解決できるかもしれないのです。
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先生情報 / 大学情報
県立広島大学 生物資源科学部 地域資源開発学科 教授 荻田 信二郎 先生
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