AIで匠の技を継承するために
ぶどうの値段はどうやって決まる?
近年、シャインマスカットという品種のぶどうが流通しています。1房1万円を超える贈答品から、1,000円程度のものまで値段はさまざまです。この値段の開きは、多くの場合は味ではなく形の差です。ぶどうは花が咲き終わると1つの房にたくさんの実をつけます。大きくなる前に成長した姿をイメージして、実を40粒ほどに間引く「摘粒(てきりゅう)」という作業を行い、この結果が値段を左右する形に関わってくるのです。
VRで名人の摘粒を学ぶ
摘粒がうまくできていないと、実が成長したときに隣同士がぶつかって潰れたり、隙間が空いてスカスカになったりします。名人はどこを切ればいいのかを、長年の経験から判断しています。名人の技を受け継ぐための教育も行われていますが、言葉では的確に伝わりません。そこで、摘粒の練習ができるバーチャルリアリティ(VR)が開発されました。VRのゴーグルをつけると、ぶどうが立体的に映し出されます。ランダムに作られたぶどうの形から、摘粒すべき実をコントローラーで除去しながら理想の形に近づけます。摘粒後のぶどうの成長も確認できるため、摘粒のコツも短時間に掴みやすいです。
摘粒の現場でAR(拡張現実)のゴーグルをかぶり、その場で人工知能(AI)に切る位置を判断させることもできますが、技術を継承せずに判断をAIに任せてしまうと、人間はAIに指示されて肉体労働をするだけになってしまいます。
匠の技を継承するには
農業以外の分野でも、日本は名人や匠といわれるようなエキスパートの個人的能力に多くを頼る現状があり、その技をいかに次の世代に継承するかが問題です。AIはディープラーニングにより名人と同レベルの結果を導くことはできますが、技術を理解しているわけではなく、単にこの入力にはこの出力、という計算をしているに過ぎません。一方で名人の頭の中には、どうしてこのようにするのかという理屈があります。それを次世代の人間が理解して継承するための支援として、AI活用の研究が進められています。
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山梨大学 工学部 コンピュータ理工学科 准教授 安藤 英俊 先生
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