理解し合える社会のために 他者の頭の中をVRで疑似体験

理解し合える社会のために 他者の頭の中をVRで疑似体験

多様な人が理解し合うためのVR

バーチャルリアリティ(VR)の技術は進歩し、臨場感を持って、まるで本当にその世界にいるかのような体験ができます。空想上の世界さえもつくり出すことができます。その技術を活用して、他者の感じている感覚、特に、その人の頭の中でしかわからない感覚をバーチャル空間上に再現して、それを疑似体験することによって、自分とは異なる人を理解しようというツールの開発が進んでいます。

再現するときに大切な「測る」研究

VR上で世界を再現するときは、現実世界を「測る」ことが大切です。モノの大きさ、場所、色などを客観的に計測し、その数値を使ってディスプレイに表示します。また、物理法則に従って計算すれば、物の動き方も再現できます。
しかし、例えば網膜の病気を持つ人が「景色がゆがんで見える」と訴えたとしても、それはその人の頭の中にしかない映像なので、そのゆがみの状態を客観的に測ることはできません。当事者の人の話を聞いたり、図に描いてもらったりすることで「測る」ことになります。
また、「まぶしさ」も主観的な感覚ですが、まぶしさは瞳孔と関連します。そこで、瞳孔の大きさの変化を測って、まぶしさの数値として表す研究も行われています。

認知症の人の感覚を体験

脳に障害がある人の生活を体験するツールも研究されています。健常者の脳を変えることはできないため、障害がある人の環境に対する感覚を、健常者に置き換えて再現するVRです。
例えば認知症の人は、自分が物を移動してもそれを忘れてしまうので、「こうあるはず」という思いと現実とが違って不安になります。健常者の記憶を消すことはできないため、「こうあるはず」と現実とが違う状態をVR上でつくり出すのです。VR上で物をどこかに置くと、目を離したときにそれが移動するようにして、その混乱する感覚、感情を味わえるようなシステムがつくられました。このVRを体験した介護職や一般の人からは、「認知症の人が生きている世界が理解できた」という肯定的な評価が得られています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

関西学院大学 工学部 知能・機械工学課程 教授 井村 誠孝 先生

関西学院大学工学部 知能・機械工学課程 教授井村 誠孝 先生

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バーチャルリアリティ、生体医工学

メッセージ

VRは、世の中に役立つモノをつくるための道具です。その道具をつくるためのさらに基本的な道具が高校時代の学びです。どうやって物が動くのかは物理ですし、物がどこにあるかの表現は数学を使います。それが自分で使えるようにならないと、もっと高度な道具は生み出せません。検索すれば何でもわかる時代なので、必要なときに調べればいいと思われがちですが、何も考えなくても数学や物理という道具を使いこなせるくらいにまで「身につける」ことが大切です。それがあって初めて、世の中に役立つ喜びが味わえます。

関西学院大学に関心を持ったあなたは

スクールモットーである"Mastery for Service"は、「奉仕のための練達」と訳され、関西学院の人間として目指すべき姿を示しています。1889年にアメリカ人宣教師W.R.ランバスによって創立された関西学院は、このスクールモットーを体現する、世界市民を育むことを使命とし、現在、関西学院の3つのキャンパスでは、約2万人の学生が個性あふれる14学部で学んでいます。2021年4月からKSC(神戸三田キャンパス)は文系の総合政策学部と理系の理、工、生命環境、建築学部の5学部体制となりました。