タンパク質の謎をコンピュータで解き明かせるか?
非常に複雑な構造を持つタンパク質
人間を含む多くの生物の生命現象は、タンパク質によって担われています。タンパク質は数千から数十万個もの原子で構成されているひも状の分子で、何万もの種類があり、常に揺らぎながらさまざまな化学反応をコントロールするという特徴を持っています。このようなタンパク質の分子が持つ非常に複雑な構造と揺らぎを分析するには、どのような方法が考えられるでしょうか?
AIによる予測と分子動力学シミュレーション
AI(人工知能)を活用すると、20種類のアミノ酸の配列から成るタンパク質の構造を予測することができます。ディープラーニング技術などの導入によって進化した近年のAIとスーパーコンピュータを用いれば、かなりの精度と速度で、タンパク質の構造を予測できるようになりました。しかしこの方法は、AIに学習させるための訓練データがなければ予測することができず、全く未知の構造に対しては予測が部分的に外れてしまう場合もあります。
もう一つの方法は、物理法則に基づいてタンパク質の構造と揺らぎをコンピュータで予測する分子動力学シミュレーションです。この方法は、一般的なコンピュータでは計算に膨大な時間がかかってしまうのが難点です。しかし、スーパーコンピュータなどを用いて、AIによる構造シミュレーションと分子動力学シミュレーションを組み合わせ、両者の欠点を互いに補い合えば、タンパク質の構造と揺らぎを通常より正確に突き止めることができると期待されています。
タンパク質の謎を解き明かす新たな「顕微鏡」
タンパク質の構造と揺らぎが正確にシミュレートできるようになると、さまざまな分野での活用が期待できます。例えば、新型コロナウイルスなどの変異の影響を調べることや、感染予防や治療に有効な抗体を見つけ出して創薬に生かすことも可能になるかもしれません。コンピュータによるシミュレーションは、タンパク質の謎を解き明かすための新たな「顕微鏡」とも呼べる手段なのです。
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埼玉大学 工学部 情報工学科 准教授 松永 康佑 先生
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