「温めますか?」 最先端材料「量子ドット」の合成は電子レンジで

「温めますか?」 最先端材料「量子ドット」の合成は電子レンジで

全く新しい材料「蛍光性カーボンドット」

2023年のノーベル化学賞は「量子ドット」の研究者たちが受賞しました。量子ドットはナノメートル(10⁻⁹m)サイズの微小な粒子で、光学特性や電子特性に関して量子力学的な振る舞いを見せる、これまでにない機能を持ったナノ材料です。現代の科学技術の最前線にある材料として期待が高まっています。
中でも、光を吸収すると特定の色の光を放出する性質を持った炭素の粒子「蛍光性カーボンドット」は、さまざまな応用例があります。例えば生体内の細胞を見やすくする「バイオイメージング」や、特定の物質に反応して光る性質を利用したセンサなどです。
ほかにも半導体の性質を利用して太陽光発電に応用できるものもあり、さらに新しい機能を持つ量子ドットの開発をめざして多くの研究が行われています。

身近な材料や器具を使った「グリーンプロセス」

こうした最先端の研究は、大規模な実験装置や高エネルギー、高額な試薬などが必要と思われがちですが、身近な材料や器具を使った環境に優しい実験も可能です。これは「グリーンプロセス」呼ばれ、そうした実験方法の開発も、SDGsや脱炭素社会の観点から注目されています。
最近では、安価なクエン酸と尿素を使用して、家庭用電子レンジでマイクロ波を当てることで、光触媒の機能を持つ蛍光性カーボンドットを合成した例があります。この新しく開発された蛍光性カーボンドットは、社会問題になっている、水道水中の有機フッ素化合物(PFAS)を分解する可能性が見込まれています。

試行錯誤の中から生まれる新しい物質

この新しい蛍光性カーボンドットの開発は、柔軟な発想のたまものです。厳密な設計や意図に基づいた開発と言うよりも、試行錯誤を繰り返す中から偶然に、全く新しい材料が生まれたのです。電子レンジという常識にとらわれない方法や、周期表にある物質をすべて研究対象にするといった分野に縛られない発想が、グリーンプロセスでの新しい材料の開発に導いたと言えます。

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関東学院大学 理工学部 理工学科 化学学系 教授 濵上 寿一 先生

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