脳と視覚の切っても切れない関係
脳が指令を出して視覚の発達を阻害している?!
私たちが「もの」を見ることができるのは、ものの色や形が光の情報として眼に入り、網膜上で電気信号に変換されて脳に伝えられるからです。眼球は2つあるので、左右のそれぞれの眼からの情報が脳の中で統合され、1つの映像として見える仕組みになっています。ところが、遠視や乱視などの屈折異常や斜視などの眼位異常により、左右の目から統合できない情報が入ってくると、脳は混乱を避けるため、片方からの情報をシャットアウトしてしまいます。特に乳幼児期はこのような働きによってシャットアウトされた方の眼が使われず、視覚の発達が止まってしまうことがあります。
「弱視」を早期発見して訓練で改善する
このような原因により視覚が正常に発達しない状態のことを機能弱視(以下、弱視)と言います。日本では小児の2%程度の人が発症しています。ただし、早期に発見して乳幼児から小学校入学までの間に訓練・治療すれば改善することができます。代表的な訓練法に健眼遮閉法があります。これは健全な目に絆創膏(ばんそうこう)のようなもの(これをアイパッチと呼びます)を貼って見えなくし、悪い方の目を積極的に使用させることで発達を促す方法です。
ほかにも目薬を使ったり、眼鏡の度数を変えたりなど、さまざまな方法を組み合わせることもあります。これらは、医師の指示のもと、国家資格を持った「視能訓練士」がこれまでの膨大な症例データなどをもとに、一人ひとりの患者さんに合った訓練計画を立て、それに基づいて行われます。
古くから行われている治療法
実は、健眼遮閉は800年代に既に行われたことがメソポタミア人の記録に残っています。現代ではiPS細胞など最先端の技術や医療機器が導入されている眼の治療の世界ですが、このように古くからの知見も生かされている、面白い分野だと言えます。今後、弱視を引き起こす屈折異常や眼位異常そのものの原因が解明されれば、この病気の早期発見や、新たな訓練法・治療法の開発へとつながることでしょう。
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先生情報 / 大学情報
帝京大学 医療技術学部 視能矯正学科 教授 臼井 千惠 先生
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