家畜の健康を守って、持続可能な畜産を実現する
畜産現場の日常的な課題
畜産に重大な被害を及ぼす家畜の伝染病である口蹄疫や鳥インフルエンザは有名でしょう。しかし、関係者の努力の成果もあり、このような病気の病原体は現在、国内に常在しているわけではありません。むしろ、畜産の生産現場で問題となっているのは、幼い鶏や豚がかかる風邪や下痢をはじめとする日常的によく見られる病気です。生産者はこのような頻発する病気の治療や、場合によっては病気の家畜を廃用することもあり、多大な負担となっています。また、こうした病気を予防・治療するために抗生物質が多用されると、耐性菌ができてしまい、治りにくくなることや異なる病気が発生する恐れも抱えています。
抗生物質に頼らず、家畜を元気にする
そこで、抗生物質に頼らず、家畜の健康を守るための研究が注目されています。その一つが飼料に混ぜる添加物の開発です。米焼酎の生産で有名な熊本県では、製造の際にできる「焼酎かす」を抗生物質の代替にできないかという研究が行われています。これは、人間がヨーグルトを食べて腸を元気にするのと同じ発想です。
また、畜産現場では毎年、相当数の牛が白血病と診断されています。白血病のかかりやすさには遺伝的な要素があることがわかっており、遺伝的メカニズムを解明する研究にも期待がかかります。
持続可能な畜産をめざす
近年、日本でもIT(情報技術)を取り入れた大規模経営をする畜産家が増えています。畜舎の温度や湿度、気温と家畜が食べる餌の量との関連や、出荷される肉量などをすべてデータで管理し、生産性を上げることに成功しています。このような工夫により、生産者は休暇も取りやすくなり、女性が働きやすい環境も実現できるでしょう。しかし、日本には家族経営型の伝統的な畜産に支えられてきた歴史があります。今後、両者のいいところを融合して新しい畜産のあり方を作り出していくことが重要となるでしょう。また、家畜を国内で生産し、国内で消費するためには、環境負荷を下げながら持続可能な畜産を実現することが必要です。
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先生情報 / 大学情報
東海大学 農学部 動物科学科 准教授 稲永 敏明 先生
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