地域に固有の家畜は、人類の貴重な宝
多様性を守りたい家畜の品種
世界には多くの動物がいるのにもかかわらず、私たちの生活に身近な「家畜」と呼ばれる動物はごくわずかです。さらに近年では、生産性を重視したほんの一部の品種が蔓延しつつあるだけでなく、伝染病による処分や大規模災害の被害などで、存続に関わるさまざまな変化が起こっています。家畜品種の多様性を守る保全研究は重要な課題ですが、これには、限られた地域で長年改良され飼育されてきた希少種も含まれます。
幻の和牛「土佐あかうし」を増やす試み
例えば、和牛の例を挙げてみましょう。日本独自の家畜である和牛は、4種類しかいません。その1つに高知県で改良されてきた、「土佐あかうし」という褐毛(あかげ)牛がいます。かつては農耕を手伝う役牛(えきぎゅう)でしたが、機械に取って代わられました。お肉も霜降り肉ではなく赤身肉が特徴のために市場価格が低下して、2014年頃には飼育頭数が1,600頭を切るほどに減ってしまいました。
しかし最近では、特有の肉質が見直され、ニーズが増大しており、産官学が連携して土佐あかうしの増頭に取り組んでいます。さらに大学では、代理出産による増頭だけでなく、フリーズドライ(凍結乾燥)保存した精子や体細胞による新たな再生技術の開発にも挑戦しています。また、牛肉の高付加価値化のために、地域で産出されるエコフィードなどを有効に利用できないか研究されているところです。
地域の希少な家畜を保全していく意義
地域の環境や人々の好みに合った品種改良が行われてきた家畜は、地域に愛される存在です。こうした家畜の遺伝資源を保全していくことは、生物としての種の保全だけにとどまらず、歴史的・文化的背景や食文化、経済環境までも含めた保全が必要です。
家畜の遺伝資源を直接守る学問分野は、理系の家畜繁殖学やバイオテクノロジーを駆使する発生工学です。しかし、生きた家畜の飼育はもちろん、地域の文化も含めた学問領域とも関わり合う、社会的貢献にもつながる研究も必要とされます。
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先生情報 / 大学情報
高知大学 農林海洋科学部 農林資源環境科学科 准教授 松川 和嗣 先生
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