宇宙の誕生の謎を解明する手がかりは「きれいな環境」?
宇宙の誕生に関わる二大ミステリー
宇宙はさまざまな謎に満ちていますが、その代表的なものが「反物質」と「暗黒物質」です。反物質は宇宙が誕生した瞬間、物質とペアで生み出されたはずなのに、なぜか現在の宇宙から消えています。暗黒物質は、ダークマターと呼ばれ、ダークエネルギーとともに宇宙の質量の大半を占めていることはわかっているものの、その正体はまだ誰も知りません。
「極低放射能環境」がキーワード
反物質とニュートリノの謎を探る上で、重要な鍵になるのが「二重ベータ崩壊」です。これは原子核内の2つの中性子が、ほぼ同時に陽子に変化する現象です。通常は中性子が陽子に変わる際、電子とニュートリノ(電荷を持たない中性の素粒子)が2個ずつ放出されます。しかしニュートリノを放出せず、原子核内で消滅するニュートリノの出ない二重ベータ崩壊があることも理論上明らかになっており、この現象を測定できれば、物質と反物質が実は行き来できるものであることを証明し、粒子数保存を覆す大発見となります。一方ダークマターを構成する物質の最有力候補とされる、「WIMPs(ニュートラリーノ)」、「アクシオン」などの未知素粒子探索実験もまだ混沌としており、世界でし烈な競争が行われています。これらの非加速器実験において信号の邪魔となる自然放射能除去(極低放射能環境の実現)がキーワードです。
課題は「カルシウム48」の濃縮
二重ベータ崩壊を起こす原子核であるカルシウム48(カルシウム同位体(原子番号が同じで陽子と中性子の数の和が異なる元素)の一つ)を、大量濃縮できればニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の測定が一気に前進します。ただ、カルシウム48は自然界にはほとんど存在しない物質で、遠心分離が使えず電磁法では膨大な電力コストがかかります。そこで現在これまでにない画期的な化学分離やレーザー分離など、安価・高効率にカルシウム48を濃縮する方法が開発されています。この技術が実用化されれば、宇宙誕生の謎を解決する大きな一歩を踏み出すことができるでしょう。
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大阪産業大学 デザイン工学部 環境理工学科 教授 硲 隆太 先生
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