シミュレーションで「破壊」の微細なメカニズムを知る
「破壊」を知るために結晶を知る
ある材料が破壊するメカニズムを研究していくと、究極的には原子や電子レベルの研究になります。物が壊れるときは、材料の内部で原子レベルでの構造変化が起こっているからです。
さて、材料は原子のかたまりで、原子には規則正しく並ぶ性質があります。これを結晶と言います。しかし、結晶がある程度の大きさになると、その並び方が不規則になる場所が出てきます。例えば、結晶と結晶の境界です。これを「結晶粒界(りゅうかい)」と言います。また、規則正しいはずの原子の並びがずれる場所があります。このような場所の構造を「転位」と言います。
破壊の瞬間、材料内部では何が起こっているか
材料が壊れるときは、まずいろいろな力が加わり、この原子の並びが不規則な場所に変化が起こり、材料が変形します。例えば、粒界がすべる「粒界すべり」や、転位の場所が動いていく「転位の運動」という現象があります。どちらの現象も、これによって材料が変形すると、材料はもう元の形には戻りません。こうして材料は破壊へと進みます。
欠かせないコンピュータシミュレーション
このようなミクロなレベルの現象を調べるには、実験は非常に困難で、不向きです。また、現在は微細な世界を探るニーズが高まっていることや、コストが安いことなどの理由で、コンピュータを使ったシミュレーションで調べることが主流となっています。
その方法ですが、2つの原子間は離れていると近づこうとし、近づきすぎると離れようとする性質があります。シミュレーションではこの力を計算し、そこから立てた方程式で、原子がどのように運動するかを計算します。この方法を「分子動力学法」と言います。これによって、どのように原子が動いて破壊にいたるのかを計算することができるのです。
このシミュレーションは、微細な世界を対象とするので限界もありますが、ハードやソフトの進歩によって、その限界を少しずつ超えられることが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター 教授 梅野 宜崇 先生
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