食糧危機の回避のために「耐塩性の強い栽培イネ」を作る!
世界に広がる塩害
人口増加に対する食料供給量の不足は、今世紀に予想される非常に大きな問題です。原因の一つには、農業に及ぼす気候変動の影響が挙げられます。乾燥・塩・洪水による害は、21世紀の世界の農業の三大ストレスです。その中で、土壌表面に無機塩類が過剰蓄積して起こる塩害は塩ストレスとも呼ばれ、雨の多い日本ではあまり知られていませんが、世界では古くから深刻な農業問題です。
塩害のメカニズムとは
乾燥地帯では、気候条件や不適切な水管理により、土壌中の水が毛細管現象により吸い上げられ、溶けていた塩分だけが地表に残ります。まるで雪が降ったように地表が白い塩類で覆われる土地もあるほどです。最近では、地球温暖化で海水面が上昇し、沿岸部の農地では地下水に海水が混じることでも塩害が拡大しており、アジアの稲作地(例:ベトナム、カンボジア、バングラデシュ)では、イネの塩害が深刻化しています。
耐塩性遺伝子を探せ
イネは、人類が8000年以上の時間をかけて野生イネ(=雑草)から育種したもので、世界中に多くの品種が存在します。西アジアのイネ品種の中には、塩害に強い性質を持つものがあります。イネのどの遺伝子がどのような役割を担うことで耐塩性が高くなるのかがわかれば、耐塩性が強い栽培品種を生み出せる可能性が高まります。現在、これまでの研究から耐塩性向上に貢献すると期待される遺伝子が、イネの中では実際にどのような働きをして、どの程度貢献するのか調べられています。また、別のアプローチとして、野生イネや耐塩性の強い在来品種から、未知の耐塩性遺伝子を発掘する試みも進められています。耐塩性遺伝子が見つかれば、古くからある品種改良の方法やゲノム編集技術を融合させて、耐塩性の強いイネの栽培品種を作り出せると期待されています。イネをはじめとする穀物の耐塩性を引き上げれば、塩害の被害が深刻な地域でも農産物の収量の安定化につながります。食糧問題を解決するためには、農業分野への科学的なアプローチも重要な鍵を握っているのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
信州大学 繊維学部 応用生物科学科 教授 堀江 智明 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
植物分子生理学、遺伝育種学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?