だれもが気持ちよく過ごせる社会へ

だれもが気持ちよく過ごせる社会へ

「ありがとう」がNGワードであることも

服を着る、トイレに行く、食事をするなどといった行為は、普段私たちが何気なくしていることです。そんな日常生活が難しくなってきた高齢の方や障がいがある方の自立を支援する。それが作業療法士です。
作業療法士は、道具の使用や訓練により、できなかったことを一つでもできるように導くアドバイザーの役割を果たします。用いる道具には、握りを工夫したスプーン、トイレや浴室の手すり、車いすなどがあり、ここで重要なのは、「自分で」できるようになったという感覚です。作業療法の世界では、何かをやってあげて、利用者の方から「ありがとう」と言われることは決して成功ではありません。利用者自らが訓練して、できるようになって、はじめて生活に定着するのです。

先生は目の前にいる

残念ながら、病気には完全には治らないものもあります。作業療法を利用する人たちはそんな病になった方々です。病気や障がいがあっても気持ちよく生活したいというのは当たり前のこと。ですから、病気を「治す」というだけでなく「折り合っていく」という意識も必要になります。
利用者の方は、自身の生活にかかわることですから、とても熱心に取り組みます。作業療法士が教えるだけでなく、利用者に教えられることも多くあり、そういった意味では利用者の方に育てられる仕事といってもいいでしょう。

目の前とこれからの両立

障がいのある人たちが便利に暮らせる社会をつくることは作業療法が掲げる理念です。ただ現状は、目の前にある問題をどう解決していくかで手いっぱいです。障がいのある人の自立支援は非常に難しく、日々、問題に直面しています。
人によってできないことはさまざまなので、マニュアルは作りづらい分野であり、研究も発展途上にあります。しかし、理念に少しでも近づくためには「生活を支援する」とはどういうことかを考えてマニュアルを作り、教育に使い、現場に生かしていくことが必要です。目の前のことと、これからのことを同時に考えながら作業療法の世界は前に進もうとしています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

信州大学 医学部 保健学科 教授 上村 智子 先生

信州大学 医学部 保健学科 教授 上村 智子 先生

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メッセージ

今、作業療法士のニーズは非常に高くなっています。学校も増えて、私が作業療法士になったころには、予想だにしなかった状況です。ですが、勉強は非常に厳しく、なってからも困難がいくつも待ち受けています。就職がしやすいからと入ってくると途中でやめてしまうということにもなりかねません。
将来のことは、現在の価値観で社会的に成功するとされていることを基準に選ぶべきではありません。今後どうなるかは誰にもわかりません。ですから、自分のやりたいこと、好きなことを選んで、選んだ後の努力を怠らず、頑張ってください。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

信州大学に関心を持ったあなたは

信州大学は、人文・教育・経法・理学・医学・工学・農学・繊維の8学部からなり、すべての学部に大学院が設置されています。教員は約1千人、在学生数は約1万1千人で、世界各国からの留学生約400人も意欲的に学んでいます。
松本、長野、上田、伊那に位置するいずれのキャンパスも、美しい山々に囲まれ、恵まれた自然のもと、勉学にも、人間形成の場としても、またスポーツを楽しむにも最適の環境にあります。さらに、地域との連携がきわめて良好であり、地域に根ざした大学としての特色も発揮しています。