「オーセンティック概念」が算数・数学教育のあり方を変える
算数教育の研究
ある小学校3年生の3つのクラスを対象に、算数教育に関する研究授業が行われました。車の交通量を表と棒グラフに表すという単元で、1組は従来通り教科書に書かれた車のイラストから交通量を求め、2組はその学校の周辺道路を撮影した動画、つまり実際の交通データから求めました。3組では、2組と同様のデータに加え、事前に「この授業で作るグラフをポスターにして、学校の交通安全に役立てる」という目標を設定しました。この結果をテストとアンケートで評価したところ、3組の児童の学力が有意に上昇したことを示唆する結果が得られました。後にほかの2組にも同様の教育効果が期待できる授業が実施されました。
オーセンティック概念
この研究は、教育方法学や教育評価論という学術分野で提唱された「オーセンティック概念」に基づいて行われています。オーセンティックには「真正の」「本物の」という意味があります。例えば交通量を表にする場合、教科書にある情報だけではなく、実際の交通状況に基づくリアルな対象に触れることや、「交通安全に役立てる」といった有意味な目標を伴うことがオーセンティックな学びの要件となります。同時に、教わった解き方を再現する力だけでなく、大学の数学研究者のように、未知の問題に向き合い、その解決に向けてアプローチする力を養うことも、算数・数学のオーセンティックな学びなのです。
コンテンツからコンピテンスへ
2020年度より、小学校の学習指導要領では従来の「コンテンツ(内容)ベース」から「コンピテンス(資質・能力)ベース」の学力観へと移行しました。これは、頭に知識や技能をため込むだけでなく、その知識や技能を使って実際に問題を解決できる子どもを育てるという方針であり、オーセンティックな学びとも軌を一にするものです。
現代の学校現場では教師の負担が大きく、学習の方法がすぐに刷新されるわけではないかもしれません。上で示したような研究の成果が徐々に広まることで、新しい算数の授業が形成されることが期待されています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
武蔵野大学 教育学部 教育学科 准教授 小野 健太郎 先生
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