不思議がいっぱい! DNAの修復システム
いまだ謎が多い遺伝の仕組み
生物にとって、遺伝情報の次世代への伝達は生命の存続のために不可欠です。しかし遺伝情報物質であるDNAが、どんな仕組みで複製、維持されるかについては、今も未解明の問題があります。その一つがDNAの損傷を修復する仕組みの中にあります。
DNAは糖とリン酸、塩基から構成される直鎖状の分子ですが、さまざまな原因でDNAの鎖が切れたり、塩基が損傷したりしてしまうことがあります。このような損傷があると、遺伝情報が失われたり変異したりし、その結果、細胞が死んでしまったりします。そのため、細胞には損傷を修復するたくさんの仕組みが備わっています。
DNAの損傷を修復するシステムとは?
DNAの鎖切断を修復する重要な修復経路に「相同組換え」があります。これは損傷を受けていないDNAから情報をコピーし、損傷した部分を正確に復元してつなぐ修復反応です。相同組換えは不思議な反応で、組換え酵素の働きによって損傷部位と同じ塩基配列をゲノムから探し出します。ところがゲノム上には、似ているけれど同じではない配列がたくさんあり、組換え酵素だけではこれらの類似配列を十分に区別できません。誤った配列間で組換えが開始されると、対合できない塩基が出てきます。こうしたケースでは、対合できない塩基を探し出し、誤った組換えを中止させるシステムが働きます。
ツメガエルの卵抽出液を使って解析
どんな仕組みでこうした複雑なシステムがはたらくのか、正確にはわかっていません。この謎を解明する方法として、ツメガエルの卵の抽出液を使い、染色体の修復を試験管内で再現する手法が開発されました。ツメガエルは卵に染色体の複製・維持に必要な材料を大量に蓄えているので、これを利用すればさまざまな反応を試験管内で起こせるのです。まずは仮説を立て、試験管内で起こるDNAやタンパク質の変化を追跡することで、反応の分子メカニズムを探ります。このように生化学という学問分野では、見えないものを明らかにし、生き物の成り立ちを探っていきます。
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先生情報 / 大学情報
九州大学 理学部 生物学科 教授 高橋 達郎 先生
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