さまざまな「比喩」表現を使うのはなぜか
言葉を使う私たちの心の中で起きていること
認知言語学という学問は、言葉を使っているときに心の中で何が起こっているのかを心理学の知見を応用して探究していく学問です。例えば "The bottle is half empty."(半分空になっている)と"The bottle is half full." (半分入っている)は、指している状況はまったく同じですが、その状況をどのように心の中で捉えたかによって、異なる2つの表現となっています。心の中での「捉え方」は、言語表現とは切り離すことができないことがわかります。
さまざまな比喩と捉え方
ここでは「比喩」を取り上げてみましょう。代表的な比喩には、類似性に基づく比喩「メタファー(隠喩)」と近接性に基づく比喩「メトニミー(換喩)」があります。メタファーは、怖い先生を「あの先生は鬼だ」と言うように、似た別のものにたとえる表現のことです。メトニミーは「やかんが沸騰した」のような表現で、実際に沸騰しているのはやかん本体ではなく、やかんの中に入っている水です。このように、私たちが日常で使っている言葉には比喩が数多く存在しますが、それはなぜでしょうか? この問題を考えるにも、心の中で私たちが物事をどのように捉えているかがカギとなります。
対話型AIと人間の言語認知はどう違うのか
人間が比喩を使うのは、伝えたいことをわかりやすく伝えるためです。比喩がなければ、日常会話には今より何倍も多くの語彙(ごい)数を必要とします。現状の語彙数で収まっているのは、一つの語に複数の意味を与えることで、やり取りできる情報量を増やしていったからです。
今後は、対話型AIや機械翻訳における、人間との言語認知の違いが重要なテーマになるでしょう。現在のAIは飛躍的に精度が向上していますが、比喩表現を見抜いて適切に解釈するのは依然として難しく、人間の場合と異なる言語能力の発達が興味深いポイントです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。