さまざまな「比喩」表現を使うのはなぜか

さまざまな「比喩」表現を使うのはなぜか

言葉を使う私たちの心の中で起きていること

認知言語学という学問は、言葉を使っているときに心の中で何が起こっているのかを心理学の知見を応用して探究していく学問です。例えば "The bottle is half empty."(半分空になっている)と"The bottle is half full." (半分入っている)は、指している状況はまったく同じですが、その状況をどのように心の中で捉えたかによって、異なる2つの表現となっています。心の中での「捉え方」は、言語表現とは切り離すことができないことがわかります。

さまざまな比喩と捉え方

ここでは「比喩」を取り上げてみましょう。代表的な比喩には、類似性に基づく比喩「メタファー(隠喩)」と近接性に基づく比喩「メトニミー(換喩)」があります。メタファーは、怖い先生を「あの先生は鬼だ」と言うように、似た別のものにたとえる表現のことです。メトニミーは「やかんが沸騰した」のような表現で、実際に沸騰しているのはやかん本体ではなく、やかんの中に入っている水です。このように、私たちが日常で使っている言葉には比喩が数多く存在しますが、それはなぜでしょうか? この問題を考えるにも、心の中で私たちが物事をどのように捉えているかがカギとなります。

対話型AIと人間の言語認知はどう違うのか

人間が比喩を使うのは、伝えたいことをわかりやすく伝えるためです。比喩がなければ、日常会話には今より何倍も多くの語彙(ごい)数を必要とします。現状の語彙数で収まっているのは、一つの語に複数の意味を与えることで、やり取りできる情報量を増やしていったからです。
今後は、対話型AIや機械翻訳における、人間との言語認知の違いが重要なテーマになるでしょう。現在のAIは飛躍的に精度が向上していますが、比喩表現を見抜いて適切に解釈するのは依然として難しく、人間の場合と異なる言語能力の発達が興味深いポイントです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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京都大学 総合人間学部 総合人間学科 認知情報学 教授 谷口 一美 先生

京都大学 総合人間学部 総合人間学科 認知情報学 教授 谷口 一美 先生

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認知言語学、言語学

メッセージ

母語は生育環境で無意識に身に付きますが、外国語は意識して学ぶ必要があるため、学ぶほどに母語との違いを自覚します。母語との違いに対して引っかかるものを感じたら、ぜひその理由を探究してみてください。例えば、英語で「ここの前置詞はなぜinなのか、onではないのか」と気になることはありませんか? 前置詞にはたくさんの比喩的な意味がありますが、その理由は何かといったような小さな疑問を大切にしていると、それは学問の出発点になり、その答えにも行きつきやすくなります。

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京都大学は、創立以来築いてきた自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献するため、自由と調和を基礎にして基本理念を定めています。研究面では、研究の自由と自主を基礎に、高い倫理性を備えた研究活動により、世界的に卓越した知の創造を行います。教育面では、多様かつ調和のとれた教育体系のもと、対話を根幹として自学自習を促し、教養が豊かで人間性が高く責任を重んじ、地球社会の調和ある共存に寄与する、優れた研究者と高度の専門能力をもつ人材を育成します。