わかりにくい発達障害の可視化 本人・周囲の共通理解につなげる
発達障害を可視化
発達障害という言葉は、幼少時から特徴が表れており、生涯にわたる支援が求められる障害を指す総称として使われ始めましたが、現在、日本ではASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、SLD(限局性学習症)などを指すことが一般的です。ただ、同じ診断名でも個人差が大きく、発達障害の各特性の程度もそれらの重なりも一人ひとり異なります。そこで、発達障害の特性を「コミュニケーション」や「こだわり」「不注意」など14の項目に分けてそれぞれを1~5まで0.5間隔の9段階で評価し、それらをチャート図として示す評価の仕組みが作られました。
自閉スペクトラム症の本質
また脳機能に関する研究も行われました。ASDの診断には「社会コミュニケーションが苦手」と「こだわりが強い」の両方が必要ですが、それらの共通要因として「変化への対応」という視点が導入され、相互に同じ間隔でボタンを押すという2者間コミュニケーションにおける、相手の変化の有無による対応とその際の脳波が検討されました。ASD者は、相手が規則的なコンピューターの場合は、同間隔でボタンを押し、前頭葉のθ(シータ)波が低い=認知負荷が低いのに対し、タイミングが微妙に変化する人に対しては対応困難となり、認知負荷も高くなりました。ASDでない方は、相手が人の場合でも認知負荷は認められませんでした。これらから、ASDの人は「微妙な変化への対応」を苦手としており、その特徴が「社会コミュニケーション」と「こだわり」の双方に表れているということができます。
社会・教育・医療の現場で
上記の発達障害の特徴を可視化する評価の仕組みは、2016年から保険のきく医療に含められるようになりました。こうした仕組みが広がり、発達障害の特性や度合いを本人も周囲も理解しやすくなれば、本人の心の健康が守られ、誤解から生じる二次的な問題が軽減されることも期待されます。発達障害の本質を明確にし、等身大の理解と配慮につなげる研究には、さらなる発展が望まれます。
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京都大学 総合人間学部 認知・行動・健康科学講座 教授 船曳 康子 先生
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