「里山」が元気だと、人間と自然の共存関係も良好になる
自然と人間との間を取り持つ「里山」
自然と人間とが良好な共存関係を維持するための1つのヒントが里山と呼ばれる地域です。里山とは、畑や水田、ため池など、自然を生かし、かつ人の手が入った地域のことです。そうした里山の環境が維持されていることで、生物多様性が守られ、農産物なども安定的に供給されるのです。
全国各地の里山を健全な状態に維持することが、持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩であることは間違いありません。ただ、高齢化や農林業の後継者不足、生活様式の変化などが進む現在、多くの里山が失われつつあります。
カメが教えてくれる里山の健康状態
各地の里山の環境の特性や劣化の原因などを科学的に調査し、持続可能なものとするための社会システムについて検証・提言するのが、「自然共生システム学」という学問ジャンルです。里山の環境を調査する上での指標の1つが、絶滅の危機にある野生生物とされるニホンイシガメです。日本固有種であるこのカメは、護岸工事や開発といった人間活動によって生息数が急速に減少しています。ただし、その一方で農業などの人間活動が全く行われなくなっても、ため池や河川、農地の環境が劣化し生き残れなくなります。二ホンイシガメが生息していることは、まさに、「里山の健康状態」を示す1つのバロメーターなのです。
複合的な知識を駆使しなければ環境は守れない
ニホンイシガメの調査は、生息数をカウントすればOKという簡単なものではありません。近年まで日本在来種と思われていたクサガメが外来種だったことが判明し、ニホンイシガメにそっくりなクサガメとの交雑種がいることがわかったからです。そのため、固有種か交雑種であるかを確認するためには遺伝子解析が必要になってきています。里山の健康状態を守り、人間と自然とが共存し続けるためには、調査地域の生き物の生息状況だけでなく、調査地域と農林業との関わり、農林業と地域経済といった社会科学の知識に加え、生命科学分野の知見も駆使した研究が欠かせないのです。
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先生情報 / 大学情報
京都産業大学 生命科学部 産業生命科学科 准教授 三瓶 由紀 先生
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