新薬開発の切り札「人工生体膜」
肝臓は有害物質の解毒工場
人は生きていくために、食べ物から必要な栄養を取り入れています。では、薬のような化合物は、どのようにして取り込まれるのでしょうか。栄養剤以外の薬は、本来不要なものです。体内に入った不要物は基本的に肝臓に送られます。そして水に溶けやすい形に変えられて、体外へ排出されるのです。このとき働く酵素が、シトクロムP450です。この酵素が化合物を酸化し、水に溶けやすくするのです。
肝臓の酵素が薬の効きを左右する
シトクロムP450は、異物を水に溶けやすくして体外に排出する役割を受け持っています。したがって薬の開発では、シトクロムP450の働きを常に計算に入れておく必要があります。
例えば、本来毒性のない物質が酸化されて、新たな毒性を持つことがあります。こんな物質は薬として使えません。逆に薬の中には、酸化により薬効が出るよう設計されているものもあります。薬の量も、肝臓で分解されることを見込んで決められているのです。ただシトクロムP450は遺伝子多型といって、人によりDNA配列に微妙な差があることがわかっています。そのために同じ成分の薬を投与しても、人によって効きすぎたり、副作用が出たりするケースが考えられます。
薬の特性を人工生体膜で調べる
薬の開発では、微妙に成分を変えた化合物を数多く作り、もっとも薬効が高いものを製品化します。その際にチェックが必要なのがシトクロムP450による影響です。薬の候補となる化合物が、シトクロムP450によってどれぐらい酸化されるか、これを製薬会社はまず検査します。現状の検査は、小さなツボを並べたマイクロプレートを使います。水を入れたツボにシトクロムP450を付けた膜を浮かべ、化合物を注入して変化を見ていきます。この方法の問題点は、多くの試料を必要とすることです。そこで一枚のチップ上で微少量のサンプルを用いて一気にたくさんの化合物の反応状況を見ることができる、人工生体膜チップの開発が進められています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。