「おはよう」「ありがとう」を言うのは常識? 言語行動の地域差とは

「おはよう」「ありがとう」を言うのは常識? 言語行動の地域差とは

「おはよう」と言うのは当たり前じゃない

朝、人に会えば「おはよう」と言い、誰かに物を借りれば「ありがとう」と言うのは当たり前でしょうか? 実は東北や沖縄などの地域では、「おはよう」ではなく「いい天気だね」や「早いね」「起きたか?」と言うことがあります。また、物を借りる場面では、「ありがとう」や「ごめんね」と感謝や恐縮の言葉を口にせずに、「良かった」「助かった」と言う地方もあります。もちろん、そうした地域の人が相手に挨拶をしたくない、あるいは受けた恩に対して感謝・恐縮しないわけではなく、その地域の一般的な話し方をしているにすぎません。場面に応じた「ものの言いかた」は全国共通ではなく、地域差があるのです。

言語行動の地域差

人間が言葉を使ってコミュニケーションを図ることを言語行動といいます。従来の方言学では、「カエル」を東北や九州で「ビッキ」と言い、「しまう」ことを関西では「なおす」と言う、といった地域による言葉の意味・形式のずれを対象としてきました。それに比べて、ものの言いかたは世代や個人差にも左右されやすく、「この地域ではこう言う」というような地域差を明確に証明しにくい側面があります。しかし、さまざまなアンケートやインタビューなどの地道な調査によって、場面ごとのものの言いかたにも一定の地域差があることが明らかになりつつあります。

より平和な世の中に

社会には進学や就職、結婚など、異なる地域で育った人々が交流する場面がたくさんあります。その中で言語行動の地域差が不要な誤解や対立を生むこともあります。「あいさつをしない」「ありがとうと言わない」といったことを、全て個人の性格の問題として解釈してしまい、「失礼」「常識がない」と、評価してしまうことになりかねません。ものの言いかたにはその人が育った地域性が大きく影響していることを学術的に証明するこの研究は、社会からコミュニケーションの不要な摩擦を減らし、より平和な世の中をつくることにもつながると考えられます。

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和歌山大学 教育学部 国語教育専攻 日本語学 准教授 澤村 美幸 先生

和歌山大学 教育学部 国語教育専攻 日本語学 准教授 澤村 美幸 先生

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日本語学、方言学、言語学

メッセージ

「常識を疑う」ことは、どんな学問分野にも不可欠な姿勢です。高校までは授業を受動的に聞き、それを記憶することが中心になりやすいのですが、大学では「あなたはどう考えるか」が問われます。その違いに、当初は戸惑うこともあると思いますが、まずは「世間ではこう言われているが、それは本当なのか?」といったん疑ってみることが学問のスタートです。
世の中の常識をただ受け入れるのではなく、常識を疑う姿勢・習慣をもつことから、物事に対する自分なりの見方や考え方を育てていってほしいと思います。

先生への質問

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和歌山大学は未来を託そうとする若者、保護者のみなさんの願いを受けとめ、若者とともに希望ある未来を創り出したいと決意しています。
新たな学びの場・新たな生活の場へ、期待とともに不安もあると思いますが、国立大学の強みは、学生数に対して教員数が多く、学生と先生の"つながり"が強固なことです。なかでも和歌山大学は、小規模クラス授業や対話的授業を重視するなどきめ細やかな教育と、行き届いた学生生活支援の体制を整えています。そして、卒業後の進路・就職を拓くキャリア・サポートには定評があります。