知られざる呼吸の底力

知られざる呼吸の底力

呼吸と姿勢の意外なつながり

イスから立ち上がる時に思わず、「よいしょ」と声が出てしまう。そんな大人の姿を目にしたことがあるでしょう。声が出るのにはちゃんとした理由があります。声を出すということは、同時に息を吐いています。息を吐くと胸郭が下がり、腹筋がしめられます。すると、体幹が固定され、安定して立つことができるのです。
坐禅やヨガの呼吸法は、息を細くゆっくりと吐くものですが、そうすると姿勢を良い状態に保つことができます。逆に「はあはあ」と短く浅い呼吸を繰り返していると、バランスは保たれません。重量挙げの選手がバーベルを持ち上げるときに声を出すのも、心理的な部分のほかに姿勢を安定させる効果があるからです。呼吸によって姿勢を制御することができるのです。

心の救世主

ほかにも呼吸には、心の問題を解決できるかも知れないという可能性があります。現在、運動によってストレスの緩和、うつ病などの心の病気の改善ができないかという研究が進んでいます。はっきりとしたメカニズムはまだわかっていませんが、うつ病の人の脳内に不足しているセロトニンという物質が、運動によって高まるのではないかといわれています。これは特に、リズム運動でより効果がありそうなのです。
呼吸はまさにリズムです。ただ、普通に呼吸しているだけではだめなので、先ほど挙げた坐禅の呼吸法に注目が集まりました。通常の呼吸は平均的に1分間で12回ですが、坐禅では細くゆっくりと息を吐いて1分間で3~4回に抑えます。実際に実験をしてみると、気分の不安定さが改善され、血中からもセロトニンが検出されました。運動によって脳が改善されていくということも研究で証明されてきています。
まだまだわからないことが多く、研究が必要ですが、薬と同じような効果を呼吸や運動で生み出せるならば副作用の心配がないので、体に優しい自然な改善方法として今後ますます活用されていくでしょう。

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東京都立大学 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授 北 一郎 先生

東京都立大学 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授 北 一郎 先生

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人間健康科学研究科

メッセージ

ヒトの健康を考える場合、脳の機能について知ることはとても大切です。ストレスや環境によって呼吸や血圧はさまざまに変化し、反対に呼吸法や運動はストレスの解消や気分の改善に役立つこともよく知られています。これらはすべて脳の働きと密接に関連して起こります。環境や行動による脳機能の適応や改善の仕組みを学ぶことは、脳の活性化やリラクゼーションをコントロールし、「こころの健康」、そして、こころの状態と密接に関わる「健やかなからだ」の維持・増進法の確立につながります。

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