里海~川と海をつなぐ生態環境と人間の共存~

里海~川と海をつなぐ生態環境と人間の共存~

里海の危機

海と陸は河川を通じてつながっています。古来、人間は川や海の自然を守りながら、魚介類や海草といった恵みを受け取り、豊かな「里海」を維持してきました。ところが、産業が発展し人間の暮らし方が変わる中で、干潟の開拓や堤防の建設などにより、川と海が分断され、川の流れや潮の満ち引きにより行来していた生物たちの移動が妨げられるなど、水環境の生態系は大きな影響を受けました。人間と水生生物が共存する豊かな「里海」を取り戻すために、貝や魚の生態と環境との関わりを読み解く研究が進められています。

中海のサルボウ貝「復活大作戦」

1990年代、全国的に公共事業が見直され、中海でも水域を農地に変える工事存続をめぐり激論が交わされ、2005年中止が決まりましたが、水環境の悪化で生物は激減していました。中海は工事の影響で海水の流入が減少し、酸素が不足する水域となり、かつて名物であった、サルボウ貝は絶滅の危機に瀕していました。
ところがサルボウ貝は、ヘドロにより貧酸素化した中海のわずかに海水が出入りする付近でひっそりと生きていたのです。これは、サルボウ貝が貧酸素に強く捕食生物がすめない過酷な水環境に生息することによります。この特徴と豊富な植物プランクトンを利用して、現在、試験養殖が行われるまでになり、2016年は約7トンが収穫されました。中海では、今もさまざまに条件を変えた養殖試験が続けられています。

二枚貝の貝殻から環境履歴を読み解く

水域を豊かな「里海」として人と共存させていくためには、サルボウ貝のような水域の環境に適した生物を漁獲することが必要です。二枚貝は成長過程が筋のような跡として貝殻に刻まれます。この筋から貝の年齢を推測でき、断面を観察するとどのような環境で過ごしたかがわかります。
かつて中海がどんな環境で、サルボウ貝が豊富にとれていたのか、その環境を貝殻に刻まれた成長の記録から読み解く方法を開発し、どのような環境を作っていくべきかという地域課題の解決を模索する研究が進められているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

島根大学 生物資源科学部 環境共生科学科 教授 山口 啓子 先生

島根大学 生物資源科学部 環境共生科学科 教授 山口 啓子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

生物学、生態環境工学、水圏生態学

メッセージ

島根県には、宍道湖(しんじこ)、中海(なかうみ)など豊かな自然環境があります。水環境と生物に興味のある学生にとってはきっと面白いフィールドとなるでしょう。水環境は人間の影響を受けやすく、私たちの努力次第で良くも悪くもなります。
私は、自然や生物のメカニズムから学び、人間がいかに手を加えて良好な水域環境を作るかという研究していますが、あなたは、例えば「里海」などの研究をするのもいいでしょう。現在ある地域の課題を改善し、良い方向へつなげていく方法を考えるような人に育ってほしいと願っています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

島根大学に関心を持ったあなたは

島根大学は、学術の中心として深く真理を探究し、専門の学芸を教授研究するとともに、教育・研究・医療及び社会貢献を通じて、自然と共生する豊かな社会の発展に努めています。とりわけ、世界的視野を持って、平和な国際社会の発展と社会進歩のために奉仕する人材を養成することを使命とします。この使命を実現するため、知と文化の拠点として培った伝統と精神を重んじ、「地域に根ざし、地域社会から世界に発信する個性輝く大学」を目指すとともに、学生・教職員の協同のもと、学生が育ち、学生とともに育つ大学づくりを推進しています。