記憶や学習を可能にする「シナプス可塑性」を制御する!
脳の中で何が起こっているのか
脳の機能に関して、私たちはまだそのごく一部しか知り得ていません。ただ、脳の働きが、神経細胞の複雑なネットワークにより成り立っていることと、そのカギを握っているのが神経細胞のつなぎ目である「シナプス」であるということはわかっています。
脳はなぜ記憶や学習ができるのかについては、シナプスの機能や形が刺激を受けることで変化し、またその変化した状態が長期間にわたって維持される性質によるものと考えられています。これは「シナプス可塑性」と呼ばれていますが、そのメカニズムについては、これまで解明されていませんでした。
光によって学習を制御する
シナプスには細胞から細胞へ信号を伝達する機能があり、その伝達効率が変化する現象が「シナプス可塑性」だといえます。神経細胞には、「グルタミン酸受容体」という情報の受け渡しをするタンパク質があり、その受容体の数の増減が、記憶や学習機能に深く関わっているということが、明らかになってきました。
楽器演奏や自転車の乗り方など、俗に「体で覚える」といわれる「運動学習」は、小脳が大きな役割をはたしていることが知られています。2018年に行われた実験では、マウスの遺伝子を改変して光に反応するタンパク質を持たせ、光を照射することで、グルタミン酸受容体の数の変化を阻害すると運動学習も阻害されることが明らかになりました。受容体の数がマウスの運動学習に明確に影響することが証明されたのです。
脳機能の解明および記憶に関わる病気の治療に
この実験で解明されたのは、小脳の機能の一部に関してですが、この技術を応用することによって、脳のほかの部位における記憶・学習機能の解明も進むと考えられます。
記憶や学習のメカニズムの解明は、記憶障害などを起こす病気の治療に役立つ可能性が高いものです。シナプス可塑性の異常が報告されている病気は、アルツハイマー病をはじめ多くあり、こうした病気のメカニズムを明らかにし、治療や症状の緩和に貢献することが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 化学生命工学プログラム 准教授 松田 信爾 先生
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