化学物質との正しいお付き合いを
痛みを伝える受容体「TRPイオンチャネル」
トウガラシを食べると、辛さや痛みを感じるのはなぜでしょうか。これはトウガラシに含まれるカプサイシンによって、ヒトの細胞膜にある受容体「TRP(トリップ)イオンチャネル」が活性化し、「辛い」「痛い」という信号が脳に送られ刺激を感じるという仕組みです。痛みを伝える働きを持つ「イオンチャネル型」の受容体の発見は1990年代後半と新しく、医療やヘルスケア分野を中心に研究が進んでいます。イオンチャネルの動きを阻害する化学物質を特定することで、その化学物質を添加した鎮痛剤の創薬などが期待されます。
化学物質による健康被害
化学物質は、私たちの生活に身近な製品にも含まれています。昔は工場や自動車が発する排気に含まれる化学物質による大気汚染で、健康被害が起きました。現代は大気汚染よりも、室内の化学物質の方が健康被害につながっているとも言われます。1990年代、住宅の建材に防腐剤や塗料として添加されたホルムアルデヒドなどの化学物質による健康被害が、「シックハウス症候群」とされ社会問題になりました。厚生労働省が指針値を定めたことにより健康被害は減りましたが、その分建材の防腐効果が低くなり、室内がカビやすくなったという報告も見られます。
化学物質の効果と怖さを正しく理解
化学物質の添加については、国による厳しい基準が定められていますが、知らずに過剰摂取してしまうこともあります。例えばワンプッシュ式殺虫剤や、たんすの中に置く防虫剤に用いられるピレスロイドは安全性の高い化学物質ですが、大量に浴びたり吸入したりすると健康被害が起こる可能性もあります。特に寝室など、長時間閉め切られる空間で使う際には注意が必要です。ピレスロイドによる深刻な健康被害はまだ報告がありませんが、健康被害が起きる前に化学物質を健康に害なく使える条件を研究で明らかにし、社会に伝える必要があるのです。
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横浜薬科大学 薬学部 健康薬学科 教授 香川 聡子 先生
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