脂質は太る素になるだけ? 〜脂肪酸が示す多彩な生理作用の研究〜
生命活動の維持に欠かせない脂質
脂質は太る素というイメージを持たれていますが、生体にとっては主要なエネルギー源であり、皮膚や細胞膜を構成する重要な成分です。さまざまな生理作用を持つステロイド化合物(ホルモン)の材料にもなります。そのため一定以上の脂質を摂らないと体の調子が悪くなることもあります。ただし、摂りすぎには注意が必要です。食品の油脂には動物性と植物性があり、動物性には飽和脂肪酸、植物性には不飽和脂肪酸を多く含みます。
油との正しい付き合い方
近年、私たちの食生活が肉類や乳製品など、油脂類を多く含む食事に変化したことにより、飽和脂肪酸の摂取量が増えていることが問題となっています。脂質はそれぞれ役割も異なりますので、適切な量を、動物、植物、魚からバランスよく摂取することが求められます。
同じ脂肪酸の中でも魚の油や植物に含まれるn-3系不飽和脂肪酸のDHA、EPA、α-リノレン酸には抗炎症作用や免疫増強作用があることが報告されています。つまり、飽和脂肪酸の量を抑え、良質な不飽和脂肪酸を多めにバランスよく摂取できれば、健康増進が期待できます。ただし不飽和脂肪酸は、とても酸化しやすいので取り扱いには注意が必要です。光や熱の刺激が加わると活性酸素となり、これが体の中で増えると老化や動脈硬化、がん、心疾患などを引き起こす可能性が生じます。
抗酸化性の高いエゴマ油は寿命延伸効果を示す
スーパーなどでも目にするようになったエゴマ油はα-リノレン酸を豊富に含むため、酸化速度は早いのですが、エゴマ乾燥子実を焙煎してから油を抽出すると酸化速度が劇的に遅くなります。しかも、ノーベル賞を受賞した3つの研究で実験モデルとして活躍した線虫(C. elegans)に与えてみると有意な寿命延伸効果を示します。したがって、n-3系不飽和脂肪酸の酸化を抑えることは我々ヒトの健康維持・増進にも役立つと考えられます。
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山梨学院大学 健康栄養学部 管理栄養学科 准教授 宮田 恵多 先生
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