水と油を混ぜる「両親媒性分子集合体」の構造に注目してみよう

水と油を混ぜる「両親媒性分子集合体」の構造に注目してみよう

身近にたくさんある両親媒性分子

両親媒性分子とは、水に溶けやすい親水基と油に溶けやすい疎水基を持った分子のことを言います。水に対して正反対の親和性を併せ持つこの分子は、水と油を混ぜる機能を持つため、身近なところでたくさん活用されています。油汚れを落とす石けんなどの界面活性剤が代表的なものですが、マヨネーズや生クリームなどの食品、化粧水やファンデーションなどの化粧品、軟膏などの医薬品、水性塗料など幅広い分野の商品に使われているのです。ところがこれだけ実用化されているにもかかわらず、両親媒性分子集合体の基本的な構造に関しては不明な点が多く、特に構造が変化していく途中の過程についてはあまり研究されてきませんでした。最近ようやくその特徴が解明され始め、注目されています。

集合体はさまざまな形をとる

両親媒性分子集合体の特徴の一つに、水中で界面(二つの物質の境の面)を形成し、特有の形を作ることが挙げられます。水の中にある油分を見つけると、両親媒性分子の疎水基の部分が油にくっついて内に向き、親水基が外に向く形となり、ここに界面ができます。その時の疎水基や親水基の大きさのバランスによって、形が変わってくるのです。親水基が大きく疎水基が短いものは、球状のミセルを作りますが、親水基が小さくなったり疎水基が長くなると、棒のように長くなる棒状ミセルや、それらが融合したネットワーク状のミセルを作ったり、膜になったりすることもあります。

さまざまな波長の光で測定

複雑な形をとる両親媒性分子集合体の構造を知るためには、対象にさまざまな波長のビームをいろいろな角度で当てることで、その形を浮かび上がらせる「散乱法」という手法が適しています。光学顕微鏡で見える範囲から、可視光、X線、中性子線など波長が異なるビームを照射した測定により、10のマイナス3乗からマイナス8乗mという幅広い範囲の物差しで構造を知ることができます。このように物質の実態を正確に把握していく基礎研究から、物質の新しい活用方法も生まれてくるのです。

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東京都立大学 理学部 化学科 教授 加藤 直 先生

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物理化学

メッセージ

高校時代の私は化学が嫌いで、物理の方が好きでした。ところがオパーリンの『生命の起源と生化学』という本を読んで感銘を受け、その分野に進むためには化学を学ぶ必要があることを知りました。優れた研究には感受性や論理性が必要です。私が現在化学の中でも物理化学を専門とし、研究対象としてソフトマターを選んでいるのは、それぞれ自分の論理性・感受性との相性が良いためで、これらは高校時代までに培われたものです。論理性を養う上で高校の授業はすべて役に立ちますから、自分を磨く意味でも向き合ってください。

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