熱帯の森に種子をまく巨鳥サイチョウ
動物による種子散布
みずから動くことができない植物が一生の間に動くことのできる数少ない機会の一つが種子の時期です。植物は風や水などで種子を運ぶだけではなく、動物も利用して、種子を運んでいます。動物に種子が運ばれる植物では、動物にはおいしい果肉を提供して、果実を丸ごと飲み込んでもらい、その中に含まれる種子を運んでもらう仕組みを進化させてきました。
アグライアの種子を運ぶサイチョウ
タイの首都バンコクから北東に約200km離れた場所にあるカオヤイ国立公園には、アグライアという樹高数十メートルにも達する樹木が生育しています。他種多様な果実が見られるカオヤイ国立公園の中でもアグライアの果実は最大クラスで、その中に含まれている種子も平均3cm×2cmほどもあります。この種子を運ぶのが、サイチョウという大型の鳥類です。サイチョウは全長が1mを超す種もいて、まがった大きなくちばしの上にあるツノのようなカスクとよばれる突起が特徴的な鳥です。サイチョウはそのくちばしをピンセットのように使って、果実の中に収まったアグライアの実を1つずつつまみ出し、丸飲みします。体内でアグライアの種子は消化されず、飲み込んでから1時間ほどたつと、サイチョウは種子だけを吐き出します。その1時間ほどの間に、サイチョウは数十メートルから数キロの距離を飛んで移動します。サイチョウは森にアグライアの種子をばらまく手助けをしているのです。
もしもサイチョウがいなかったら
もし、サイチョウがいなかったら、アグライアの種子は実った木の下の地面に落ちることになります。地上では、ヤマアラシやネズミなどの動物がアグライアの種子を食べますが、種子が実った木の下に集中して落下すると、そこが種子を食べる動物たちの格好の餌場となって、ほとんどのアグライアの種子は生き残ることができません。サイチョウによって、種子を食べる動物たちがあまり集まってこない場所に種子が運ばれることで、アグライアは熱帯の森の中で分布を広げて、生き残ることができているのです。
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石川県立大学 生物資源環境学部 環境科学科 准教授 北村 俊平 先生
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