牛の胃に棲む微生物を使って、雑草から電気をつくる

牛の胃に棲む微生物を使って、雑草から電気をつくる

2011年の震災時、発酵させるものが無かった

生ゴミや家畜のふん尿などのバイオマスを微生物に分解させ、その過程で生じたメタンガスを取り出して(=メタン発酵)、そのメタンを発電に利用する試みは、以前から国内外で広く行われてきました。しかし、2011年の震災における避難生活では、食べるものさえ困る状況で、生ゴミはなく、せっかくのメタン発酵も活かされることはありませんでした。そんな時でも、避難所のまわりには雑草はたくさん生えていました。これを電気に変えることができたならば、携帯電話を充電して家族の安否を確認できるし、国・県・市が出している原発や食料の情報にもアクセスできたでしょう。そこから、停電を伴う災害時にも役立つ「雑草を電気に変える」研究はスタートしました。

雑草はメタン発酵が難しい、そこで牛の胃の微生物

雑草などのように細胞壁に不溶性食物繊維「セルロース」の多いバイオマスは微生物による分解が困難で、メタン発酵を十分に行えません。そこで注目されたのが、いつも草を食べている牛の胃袋(=「ルーメン」といいます)。彼らの胃の中には、雑草も分解できる微生物が棲んでいます。しかし、この微生物たちを、牛の胃から取り出し発酵装置に移すと、24時間ほどで雑草を溶かす能力が失われることが問題でした。そこで、この微生物たちのDNAとmRNAが網羅的に解析され、条件検討された結果、この微生物たちの雑草を溶かす能力を、発酵装置の中で長期間維持することに成功したのです。

災害時にも活躍できる発電設備をつくる

現在、この微生物たちを活用して、雑草から高効率でメタンガスを生産し、電気に変える研究が進んでいます。この仕組みを公民館や道の駅に設置することができれば、停電を伴う災害時にも、避難された方々に雑草から作ったメタンガスで温かい食べ物を用意でき、夜の明かりを灯し、携帯電話・スマートフォンを充電する電気も確保できます。次の大震災が来る前に、このような世界を実現するべく研究は日々進んでいます!

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

石川県立大学 生物資源環境学部 生物資源工学研究所 講師 馬場 保徳 先生

石川県立大学 生物資源環境学部 生物資源工学研究所 講師 馬場 保徳 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

環境微生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

一度きりの人生ですから、自分が本当にやりたいことと出会えると素敵ですね。そのやりたいことが仕事になれば、きっと毎日が楽しくなると思います。人生の起きている時間の多くは職場にいますからね。
もし少しでも面白そうだと感じることに出会えたら、ちょっと首を突っ込んでみてください。それが楽しければ、そのまま進めば良いし、ちょっと違うなと思えばまた別の道を探せば良いと思います。自分が諦めない限り、何度でもチャレンジできます。私も、30歳手前で企業を退職したのち、7年半チャレンジし、今の仕事に巡り合えました。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

石川県立大学に関心を持ったあなたは

人間の暮らしの根幹を支えている農業生産。その基盤となる自然環境。そして食べるということ。そうした人と自然との関わりをしっかりと見つめ、未来へ生かしていこうとすること。そんな思いを実現するために、本学では少人数制での指導体制(卒業研究指導時、教員1人に対し学生3人以下)を取っています。結果、就職率100%、官公庁就職率25%(2020年3月卒業生)という実績を上げており、地域社会のニーズに応えられるよう努めています。「住みよさランキング2020」全国1位の「ののいち」で私たちと一緒に学びませんか。